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はじめに
日常臨床の場で,冠状血管系の病的状態を考慮するさいに,おそらくほとんどの場合に冠不全またはcoron—ary ischemiaの概念が頭にあると思われる。異常のある範囲については別にして,心筋の必要とする物質,主として酸素が十分に供給されているか否かが脳裏にあるであろう。そこで,冠状動脈に入る動脈血酸素含量が,大動脈に駆出される以前の条件で規定されてしまっているから,心筋に供給されうる単位時間あたりの酸素の量は,冠血流最によって定められることとなり,この測定を必要と感じることになる。正確に言えば,心筋酸素消費量は心筋への動脈血と,そこから出てくる静脈血の酸素含量較差に血流量を乗じたものであるから,静脈血酸素含量が心筋の代謝に有利な酸素分圧に比して日常はるかに高いものであるとすれば,心筋が酸素の必要量をましたときに,静脈血酸素分圧を下げることによるのみで心筋酸素消費量を問題なく増加することができるので,冠血流量は重要なvariableとしての意味はなくなる。しかし,心筋の静脈血として比較的容易にとり出すことのできる冠状静脈洞血の酸素分圧は,冠状血管に異常のない人間にあってはほぼ20mmHg1)とされており,生体の静脈血中最低の値を示すことから,酸素代謝の中心となるoxydative phosphorylationの場であるmitoc—hondriaの働ける最低の酸素分圧が10mmHg以下2)とさらに低いとしても,静脈血酸素分圧をさらに下降させて心筋を正常に活動させられる範囲すなわちcoronary venous oxygen reserveは小さいものと考えられる。
また,もし心筋の酸素需要を正確に計算することができるならば,そして正確な心筋よりの静脈血酸素含量と心筋を正常に活動させるための心筋細胞内酸素分圧を知りうるならば,心臓の動静脈酸素較差を酸素需要量で割ることによって,必要な冠血流量を算出しうるし,かつ心筋細胞内酸素分圧が異常に低いか正常かによって,そのときの冠血流量がうまく保たれているか否かの検討も可能といえ,冠血流量の測定の重要性は大幅に減ずることになるであろう。しかし現実には心筋の酸素需要も,心筋細胞内酸素分圧も,さらには心臓の静脈血のすべても得ることは目下のところ不可能であり,冠血流量測定により,他の方向からの心筋代謝のアプローチが期待されてきたと考えられる。
ところで,冠血流測定がどれ程われわれの循環生理学に助けになってぎたかと考えてみると,それはあまり重要な位置をしめていないのではないのではあるまいか。この疑問を検討してみるのは,冠血流測定法を解説する一つのよい方法であろう。
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