巻頭言
悪性肺高血圧症とその規準
前川 孫二郎
1
1京都大学
pp.3-4
発行日 1967年1月15日
Published Date 1967/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404201723
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今日周知のように肺高血圧症は体循環のそれと同様原発性,すなわち一次性と,続発性,すなわち二次性とに区別される。その上筆者ら1)は一次性,二次性を問わず,肺の高血圧症にも体循環のと同様悪性と良性とが区別されうることを報告した。このことは単に肺高血圧症のみにとどまらず,今日文明国で疾病死の第1位をしめる体循環高血圧症の本態を追究する上に重大な手掛りをあたえうるであろう。すなわち肺循環は一つの独立した,しかも比較的簡単な循環系で,腎もなければ副腎皮質や中枢神経さえもない。この系の血圧は単に肺胞内の酸素圧とその領域の血中水素イオン濃度との間の相互作用にのみに依存し,拍出量や混合静脈の酸素圧,さらにヘマトクリット,酸素運搬,カテコラミン量などとも無関係であるといわれる2)。そこで本稿では悪性肺高血圧症をもっと厳格に規定するために,体循環のそれにならって一定の規準を設定してみようと思う。
筆者が悪性肺高血圧症の存在を確信したのは第3回京大CPCに出題した患者においてであって,しかも一次性肺高血圧であった3)。患者は「羸痩,心悸亢進,呼吸困難,発熱を主症状とし,喀血して死亡した25歳の女子」で,23歳の10月に感冒,発熱を誘因として,やがてレイノー氏現象,1年後には右心不全と上記の主症状の下に急速に肺不全に陥り,1年4ヶ月の経過で死亡した。
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