巻頭言
外科における機能研究の発展
卜部 美代志
1
1金沢大学
pp.147
発行日 1958年3月15日
Published Date 1958/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404200597
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外科治療は観血的手術をたてまいとするもので,原病はそれによつて治癒させることが出来るが,必ず組織の毀損を貽して,厳格の意味からは程度の差はあれ,すべて非生理的状態におかれることになる。従つてResti—tutio ad integrumを放棄することは外科治療の特徴であると共に運命づけられた大きな欠陥でもある。然しことが目前の生命を脅しているような至上適応の場合にあつては完全なる回復の放棄も問題にされないわけである。
外科が比較的単純な曾ての時代に於ては主として形態学の知識を根拠として略々こと足りていた。然しその後目覚ましい進歩を示した近代外科は機能方面の知識を大いにとり入れ,先ずその発展のためには次の3つの基礎的条件を必要とした。それは(1)出血の対策特に止血法の改良と亡血補充方法の完成,(2)創傷感染の防止の確立,即ち無菌法の厳守と化学製剤並びに抗生物質の活用,(3)疼痛の完全な回避,即ち麻酔法の完成である。(1)の出血対策の確立は観血手術に必ず伴う出血とそれに続発する不可逆ショックの制圧を外科家の支配下におき,蛋白,電解質,水の均衡破綻を矯正して術後の経過を著しく良好にした。(2)の感染防圧の確立は外科家にいささかのおそれもなく身体のあらゆる領域に自由にメスを振う自信を与えた。まことに(1)(2)の条項は外科治療の安全性を増すためには不可欠のものであつた。
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