巻頭言
医学研究における創意と発展
上田 英雄
1
1慈恵医科大学
pp.1
発行日 1957年1月15日
Published Date 1957/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404200447
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3日前に1956年度ノーベル医学賞が静脈カテーテル法の発見とそれによる研究成果によりフオルスマン・クアーナンド・リチヤードの三博士に与えられることを知つた。「呼吸と循環」の領域に最も関係の深い人々であるので感銘の深いものがある。極端な表現をすれば,フオルスマン・クアーナンドがいなければ近代の呼吸学や循環器学の発展はなく,従つて本誌の生れる機運はなかつたと推定される。
静派カテーテル法が心拍出量の測定に混合静派血を安全に且つ安静裡に採血しようとして発見されたことはフオルスマンの最初の論文を見ればわかる。しかしこの時にフオルスマンが25才前後の青年医学者であつたことと,最初の静脈カテーテル挿入を自らの身体に行つたことに驚きを感じる。創意により静脈から心臓にまで尿管カテーテルを入れ混合静派血をとつたのであるが,この発見が大学を卒業したばかりの白面の医学徒により成し遂げられたことは,世界の青年医学者を大いに元気づけるであろう。数学のような領域においては以前から言われていたことであるが,20世紀の医学研究においても一面の真理であることが証明されたわけである。また器具の消毒や操作法の未知による危険を冒して自らの身体に実施したということは,方法に自信をもつたもののみが行いうることではあるが,あくまで人道的でありまた殉教的でもある。
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