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はじめに
肺は呼吸運動により膨張収縮を繰り返し,ガス交換を行っている.これに伴い肺組織や細胞には常に周期的な力学的負荷が作用している.肺を微視的に見れば,厚さ10μm程度の薄い隔壁で区切られた直径100〜200μmの肺胞で埋められている.肺胞は気道系の末梢に位置し,一本の呼吸細気管支につながる肺胞管,肺胞囊および肺胞は肺細葉と呼ばれるガス交換ユニットを形成している1).肺胞隔壁は,結合組織や毛細血管,肺胞上皮細胞などから構成されており,ガス交換や肺の弾性機能の役割を担うとともに,肺サーファクタントを分泌して肺胞や末梢気道の気液界面に作用する表面張力を低下させ,肺実質の力学的安定性を維持している2).こうした複雑な構造をした肺内部の力学状態は十分に把握されておらず,呼吸運動によって大きく変形する肺組織のなかで,肺を構成する細胞がどのような力学的環境下に置かれ,それに対して細胞や組織がどのような応答を示すのかについては明らかになっていない.
一般に細胞は力学的負荷や環境に応答して,自身の構造や機能を変化させ,周辺組織のリモデリングを引き起こすことが知られており,肺を構成する細胞もその例外ではない.たとえば,呼吸機能の重要な役割を担っている肺胞上皮細胞には,ガス交換に関係するⅠ型細胞と肺サーファクタントを分泌するⅡ型細胞があるが,力学的負荷が作用しない静地培養下ではⅡ型からⅠ型に形質転換することが知られている3).最近では,こうした力学的負荷に対する肺組織や細胞の応答を調べるためのマイクロチップの開発も進められている4).一方,臓器レベルでは,人工呼吸の圧力負荷により肺組織や細胞が徐々に損傷していくことや5),肺組織の破壊や変性を伴う肺気腫や肺線維症などの肺疾患の進行には力学的負荷の作用が関与している可能性が報告されている6).肺の臓器レベルの変形と力学的負荷に対する細胞・組織レベルの応答を結び付け,病的な肺リモデリングを引き起こすメカニズムを解明していくためには,肺の細胞・組織から臓器に至る解剖学的構造や力学的関係を記述するモデルが必要となる.こうしたマルチスケール解析を目指した肺のモデルはいくつか提案されているが7,8),ミクロとマクロの力学場を提供する肺細葉レベルではまだ形態学的に不明なところも多く,その不均一な微視的構造を正確に反映させたモデルはまだ確立していない.そこで本報では,肺のマルチスケール解析に向けた肺細葉の形態計測とモデリングについて述べる.
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