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はじめに
社会の高齢化に伴い,わが国においても虚血性心疾患は増加の一途をたどっている.冠動脈バイパス術(以下CABG)は1960年代にアメリカで開始され,その劇的な症状改善効果と比較的安全な手術であることから本邦においても一般的な治療法になった.しかし,一定頻度で脳梗塞などの重篤な合併症の出現があること,2%程度の手術死亡率があること,また一方でカテーテルインターベンションの進歩により外科治療の位置付けは大きく変わってきた.カテーテルインターベンションの適応拡大とともに,左冠動脈主幹部病変,低左心機能の多枝病変,緊急手術などこれからの心臓外科医の使命は,より重症化し,また合併疾患を持った症例に対し安全確実に遠隔期予後を改善する良い手術を行うことにある.特に他臓器疾患合併例や高齢者などのいわゆる重症例に対してより安全で確実な冠動脈再建術が求められている.
そこで注目を浴びてきたのが心拍動下冠動脈バイパス術(Off-pump CABG)である.特に小切開冠動脈バイパス術(MIDCAB)は,小開胸を行い内胸動脈を剥離し,人工心肺を用いず心拍動下に冠動脈バイパス術を行う新しい術式である.MIDCABは単に傷が小さいという点だけではなく,患者の術後の回復が早く,低コストを特徴としている点である.さらに左前下行枝の1枝病変症例に限らず,多枝病変であっても体外循環運転によるリスクが高いと判断された症例(脳血管障害,上行大動脈高度石灰化,高齢,悪性腫瘍合併,多発性動脈硬化症例,腎不全,呼吸不全症例など)では,正中切開Off-pump CABG(以下OPCAB)などの人工心肺を使わないメリットを十分に発揮できる術式が出現した.特にOPCABでは完全血行再建率100%と正中切開の導入により全ての冠動脈に到達可能となったことで術式の自由度が高くなり,また術中のいかなるトラブルにも対処することができる.
われわれは本邦で初めて胸腔鏡を用いたMIDCABを導入した.今回Off-pump CABGの経験と最新の治験をもとに,適応,成績そしてCABGの将来について検討する.
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