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はじめに
肺癌は世界で毎年100万人以上の患者が新たに発生している頻度の高い癌種である.日本においても肺癌の罹患率は増加傾向であり,呼吸器疾患の臨床において外来,入院診療ともに肺癌が占める割合は大きい.そして,高齢化社会が進むことによりさらに患者数が増加することが予測されている.肺癌は他の悪性腫瘍に比べ死亡率が高く,日本では1年間に約7万人が肺癌で亡くなり,死亡者数は悪性腫瘍のなかで最も多く難治性疾患の一つである.初発症状としては咳や痰が多いが,検診により無症状で発見されることも多い.肺癌は進行するまで比較的症状が乏しいため早期診断は難しく,リンパ節転移や遠隔転移といった進行した状態で診断されることが多い.そのため,肺癌治療は局所療法としての手術や放射線治療よりも全身療法としての化学療法が多く行われている.化学療法はシスプラチンやカルボプラチンといったプラチナ系薬剤を中心に2種類の抗癌剤を用いたプラチナ併用化学療法が広く行われている.しかし,肺癌における化学療法の効果は高くなく,進行非小細胞肺癌に対する化学療法の奏功率は約30%,中間生存期間は約12カ月と決して満足のいくものではなく,未だ予後不良な疾患の一つである.
一般的に癌化学療法の効果は患者間で差が大きく,原因の一つとして患者個々における癌の特性の違いによると思われる.特に,肺は線毛細胞や基底細胞,杯細胞,Clara細胞,Ⅰ型肺胞上皮,Ⅱ型肺胞上皮,神経内分泌細胞など多彩な細胞により構成されているため,癌化の母地となる細胞により肺癌の性質は様々である.肺癌は単一な疾患ではなく多様性に富んでおり,性質に応じて肺癌を分類することで治療薬の選択や開発といった個別化医療の推進や予後予測に役立つと考える.癌の性質を分類する因子として組織型は以前より数多く検討されており,現在も治療法の決定に関わる重要な因子である.癌における遺伝子研究は,癌化のメカニズムを解明していくことで癌の本質に迫ることができ,近年は肺癌領域においても研究が盛んに行われている分野であり,遺伝子という点から肺癌の性質を分類し治療に役立てる取り組みはさらに進んでいくものであると思われる.本稿においては,肺癌の性質を分類する組織型と遺伝子異常について,特に抗癌剤治療との関わりについて概説する.
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