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特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)は,有病率が人口10万人あたり11.8の希少疾患であるが,近年国際的に多施設共同臨床試験が展開され治療薬の開発が進められている.特に米国を中心としたグループによる臨床試験が積極的に展開されているが,これらの臨床試験にはいくつかの問題点を感じる.2008年10月に世界に先駆けて本邦で承認されたピルフェニドンは,本邦で行われた第Ⅲ相臨床試験において有意な進行抑制効果が示された.一方,その後米国で行われた2つのCAPACITY試験は,一つの試験が有意な効果を示すことができず,現在もまだFDAの承認は得られていない.この臨床試験ではプラセボ群の22%の患者に無治療で努力性肺活量(FVC)の改善がみられたことが,治療群との有意差が得られなかった最大の原因と考えられる.もし,米国での臨床試験が先に行われ,その結果がnegativeと報告されていたらピルフェニドンは治療薬として臨床現場に登場しえなかったかもしれない.本来IPFは5年生存率が30~50%の進行性疾患であり,癌患者に匹敵する予後の悪い疾患である.貴重なIPF治療薬候補を確実に実地臨床医の手に届けるためにも,より慎重な臨床試験が必要である.ちなみに本邦で行われたピルフェニドンの第Ⅲ相臨床試験では,プラセボ群のVC改善率は6.8%と米国の試験に比較して明らかに低値であり,慢性進行性のIPFの臨床像に合致した患者がエントリーされていたことを示している.米国で行われたイマチニブの臨床試験においても,やはりプラセボ群の患者が予想以上に進行しなかった結果が報告されており,症例選択の重要性が示唆される.
数多くの臨床試験が進められ,多くのエビデンスの蓄積により明らかに予後が延長している肺癌の領域では,たとえ高インパクトファクターの雑誌に掲載された臨床試験結果であっても,そのプロトコールや試験デザインが吟味され,改めてその臨床試験の意義を評価した後,ガイドラインに反映させる努力が行われている.また,ある国際グループにより行われた大規模臨床試験結果であっても,確認の余地が残されていると判断された場合には全く同じデザインでの追試も行われる.2012年に発表されたIPFに関するNアセチルシステイン+プレドニゾロン+アザチオプリンの3剤併用療法のPANTHER試験とワーファリン療法のACE試験はいずれもnegativeの結果発表ではあったが,前者はステロイドの減量方法が本邦の日常臨床とは大きく異なるプロトコールであり,後者はpositiveの結果を報告した以前の試験とはエントリー患者の重症度が全く異なる患者を対象に行われていた.IPFという疾患の特徴から,症例選択や効果判定をはじめ臨床試験として難しい点が多いのは事実であるが,より一層精度の高い試験が必要と思われる.そのためには,ピルフェニドンの臨床試験で証明した本邦のノウハウを海外に向けて発信することが,新薬の登場を心待ちにしている世界のIPF患者に対してなすべき努力かもしれない.
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