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はじめに
特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis;IPF)は,American Thoracic Society/European Respiratory Societyによるガイドライン1)や,日本呼吸器学会による診断と治療のガイドライン2)に基づいて,ステロイドと免疫抑制剤を中心とする治療が行われている.生存率を改善する治療法は未だ存在しないため,病状が安定していれば生活管理,感染対策や低酸素血症,肺癌の合併への対処が中心となる.活動性が高いときはガイドラインに従ってステロイドや免疫抑制剤の使用を考慮するが,原疾患の悪化なのか,あるいは感染症や心不全など他疾患の合併なのか,十分に見極める必要がある.高齢者においては糖尿病,感染,骨粗鬆症などのリスクも考慮したうえで,慎重に投与の適否を決定する.最近は肺移植も諸施設にて可能であり,肺移植について患者への説明を早期に行うべきである.
ステロイドと免疫抑制剤を併用する際には,効果判定は3ないし6カ月後,自覚症状,肺機能,画像にて判定する.改善はなくとも増悪しなければ治療は有効と考え継続する.維持療法中の最大の問題は感染症である.特に,ニューモシスチス肺炎,サイトメガロウイルス,真菌感染症,結核菌感染症には注意を要する.イソニアジド,ST合剤の予防投与は積極的に行うべきである.急性増悪時には,ステロイドのパルス療法を行う.病状の安定が得られるまで,1週間隔で2~3回繰り返す.適時,免疫抑制剤や急性肺損傷に効果がある好中球エラスターゼ阻害剤を併用する.近年,敗血症においてエンドトキシン吸着作用を目的に使用するポリミキシンB固着化カラムの効果が検討されている.
しかしながら,現在の治療では副作用も伴い,その効果は乏しく,診断からの平均生存期間は3~4年と予後不良である.ステロイドと免疫抑制剤による治療法は,predonisoneとazathiopurine併用療法に代表されるように,IPFの活動性のある肺組織に集簇した単球やマクロファージを抑制する目的であったが,感染症のリスクが高まり,骨髄抑制,肝障害など副作用があり,治療効果は不十分と考えられている.弱いながらもエビデンスとされた臨床試験には非特異性間質性肺炎(nonspecific interstitial pneumonia;NSIP)が多く含まれていたため,IPFに対するステロイドと免疫抑制薬の併用について明らかなエビデンスはない.病態に対する研究の成果によって,線維化は慢性炎症ではなく,繰り返す肺上皮細胞損傷と修復異常によって進行すると認識され,新規分子標的薬の開発が期待されている.
本稿では現在進行中および今後期待される分子標的治療について解説する.
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