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巻頭言を書くにあたり,私が呼吸器病学を本格的に学び始めた昭和55年頃のことを思い出した.当時瀧島任東北大学教授などキラ星のごとく学会を席巻し,紙面を飾った先生方も,この巻頭言をお書きになったのであろうと考えると感慨ひとしおである.昭和52年に日本医大を卒業後,3年間麻酔・救急を学んだのち,東京女子医大の滝沢敬夫教授の門を叩いた.当時,肺機能研究室は,Konno-Mead diagramで知られている金野公郎教授が主催していた.まず勉強したのが「呼吸と循環」14巻9月号(1966年),17巻8月号(1969年),24巻1月号(1976年)である.これらの特集号は今も小生の書棚にあり,時折若い医局員への指導に重宝している.当時滝沢教授は粘液線毛輸送系を研究テーマに据え,医局を挙げて様々な視点から研究が進められていた.私は粘液線毛輸送系の構造と機能との関連について研究を行い,イヌ気道においては,気流の存在が粘液線毛輸送の促進に重要な役割を果たすことを報告し学位を得た.これらの研究を通じて,呼吸機能に対する構造の関与に深い興味を抱き,1987年にPulmonary research laboratory(University of British Columbia)に留学した.ラボを主催するJ.C. Hogg教授およびP.D. Paré教授は肺のstructure and function研究で,世界をリードしており,ここでの研究は生涯の宝となった.1980年当時,気管支喘息は気道平滑筋の攣縮が病態の中心をなすと考えられており,短時間作用型β刺激薬の,regular useなども推奨されていた.しかしParé教授のもとで研究していたRodrigo Moreno(チリ)およびAlan James(オーストラリア)が,気道内壁(平滑筋内側の粘膜)の肥厚のみで,気管支喘息の気道過敏性や急激な内腔狭窄が説明できるという仮説を提唱した.彼らの研究は,気管支喘息の本体が慢性気道炎症によるリモデリングであるという概念の基となっている.私は彼らの研究を継承する形で,平滑筋収縮のメカニクスやCTを用いた気道壁の評価などの研究に携わった.1990年に一度日本へ戻ったが,研究への意欲がさらに強まったため後先を考えず,1991年に再びPulmonary research laboratoryに戻り,1997年までassistant professorとして研究と教育に従事した.1994年には,Canadian Thoracic Societyより学会賞をいただいたたが,このgrant proposalでは,気道内腔狭窄の原因として内壁のリモデリングは重要であるが,リモデリングの質すなわちelastic propertyの変化が,平滑筋収縮に影響を及ぼすという仮説を立てた.内壁が厚く堅いと,それだけ平滑筋収縮が制限され,かえってprotectiveに働く可能性があるという仮説である.正常イヌ気道においては,気道の壁面積と平滑筋の収縮率がきれいな負の相関を呈し,気道壁が厚いほど内腔が保たれることが実証された(J Appl Physiol 78:608, 1995).この仮説が正しいとすると,気管支喘息おける内壁の肥厚が線維化によって生じたか,浮腫に生じたかによって,気道平滑筋の収縮率は変化し内腔狭窄に差が出てくるはずである.この問題に関する研究は多くなく,未だ結論には至っていない.1997年に現在の大学に移ってからは主として,学生教育,研修制度,病院機能評価など医療の構造改革などに従事した.この分野の業務も非常に興味深く得るものが多かった.しかし,大学での任期も3年ほどになった現在,最後はやはり研究へ舵を切ってみたいという気持ちが溢れている.無計画な道のりを歩んできたが,若い医師諸君には,チャンスがあれば何事にも一歩を踏み出す勇気を持っていただきたいと,切に希望する今日この頃である.
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