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あとがき
永井 良三
pp.108
発行日 2012年1月15日
Published Date 2012/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404101881
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最近,病棟を回診していると肺高血圧症の患者が増えてきたことに気付く.従来のプロスタグランジン製剤に加えて,エンドセリン受容体拮抗薬やPDE阻害薬が90年代から相次いで臨床応用され,治療の選択の幅が広がったためである.また,PDGF受容体拮抗薬であるイマチニブも肺高血圧症に有効であることが2005年に報告され,昨年から世界同時治験も開始された.その他にも新しい治験が次々と進められている.実際,3者併用療法により肺動脈圧が著明に低下する症例もあり,これまで難治とされてきた肺高血圧症のイメージは変わりつつある.また,肺高血圧症の様々な病態も明らかにされており,病態に応じた治療法の選択も行われる日も近いと期待される.
肺高血圧症の基本病態は低心拍出量と右心不全である.肺血管抵抗の上昇は右室負荷から右心不全を来す.極度に拡張した右室が左室を圧迫すると,左室機能も障害される.いずれにしても右室負荷を早期に見つけることが重要だが,心電図による右室肥大の見落としが目につく.右軸変異を伴う右脚ブロック様の波形や,右軸変異がなくとも左側胸部誘導でS波が深いときは要注意である.最近はコンピューター診断が普及したが,右室肥大の診断精度は低い.そのため専門医でも典型的な右室肥大を見落としていることがある.心エコーを検査すれば右室圧の評価は可能だが,やはりスクリーニングとしては心電図診断であろう.すでに研究し尽くされた感のある心電図ではあるが,もう一度,見直しが必要である.その意味で,肺高血圧症は古くて新しい問題であり,新たな挑戦をぜひ期待したい.
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