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医療提供体制をめぐる議論がかまびすしくなってきた.参議院選直前ということもあろうが,医師の強制派遣等,かなり無理な案が議論されている.そもそも広く薄い医療提供体制を支えてきた勤務医に負担がかかりすぎていたことが,現在の混乱を招いているのであり,根本的対策をとらずに小手先の対策をとっていても事態は悪化するばかりである.医療費にしてもGDP比でみれば世界18位であり医療費抑制よりも増加が望まれるが,今の状況では社会の支援を得られる見通しは暗い.しかし,なぜ医療サービスの向上を求めつつ医療費の抑制を進めるのか誰もが理解に苦しむところである.ひとつの理由は赤字国債である.1970年以後の高度成長を支えてきた赤字財政の問題は,ある意味ではゼネコンや金融機関の不良債権の後始末なのである.しかし,それ以上に社会が医療費を出し渋る理由は,まだ医療やその関連産業に従事する国民が少ないからではないだろうか.日本の公共事業が多いのは建設や土木関連の産業規模が大きいからであろう.いわば供給が需要を生み出しているように思える.これらに比べれば日本の医療産業の規模は小さく,圧倒的に輸入超過となっている.
日本の産業構造の転換が叫ばれるようになってから久しい.多くの製造拠点が海外へ移転しているため,今後はサービス産業で雇用を創出しなければならない.2025年に医療費は56兆円まで増えるといわれるが,これこそ新たなサービス産業の資源であり,多くの雇用を生み出す.臨床試験,治験,トランスレーショナルリサーチなどが強調されるのも,これらを背景としていると考えられる.これらの活動により日本の医療産業が健全に発展すれば,もっと医療と医学の実態,研究,医療費,研究費に国民の関心は向くであろう.また,国内のどこでもレベルの高い臨床研究が行われれば,医師偏在問題にも解決の糸口が見出されるであろう.
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