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はじめに
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,炎症性粒子を反復吸入することにより生じる肺の慢性炎症性疾患であり,気道の狭小化と肺胞破壊により気流制限が緩徐に進行する.先進国においては,長期の喫煙が最大の危険因子と考えられており,エイジング=加齢とともに罹患率は上昇する.2001年に本邦において全国規模で行われたCOPDの疫学調査(NICE Study)によると,COPDの罹患率は日本人の46歳以上の総人口の8.5%以上(530万人以上)に達し,高齢になるほど罹患率は上昇し,50歳代に比べての70歳以上では3倍以上に増加することなどが判明した(図1)1).また,社会の高齢化とともに,COPDの罹患率が上昇し,厚生労働省の人口動態調査においても,COPDによる死亡は毎年上昇し,特に高齢者において大きな問題となっている(図2).この傾向は全世界においても同様であり,28カ国の疫学調査結果のメタアナリシスによると,40歳以上のCOPDの罹患率は9~10%に達し,また60歳を超えると,COPD罹患率は若年層に比べて2~3倍に上昇するとされる2,3).
以上の疫学調査から,加齢とCOPD発症が密接に関連していることは明らかである.高齢者でCOPDが増加する理由として,1)エイジング自体が肺の構造・機能の脆弱性をもたらしている可能性,2)1の結果として,外界からの障害性因子への反応が若年時と異なり破綻しやすく,構造破壊・改変を受けやすくなる可能性,また,3)高齢者は,喫煙を含む外界からもたらされる様々な障害性粒子に長期間曝露されていることにより,1,2)の要素が顕在化しやすいことなどが考えられる.
健常者の肺の加齢変化とはどのようなものであろうか.非喫煙健常者を対象にした検討では,加齢による肺弾性収縮力の低下が示されている4).また,残気量と機能的残気量が加齢により増加するが,全肺気量は変化せず,結果的に残気率は加齢とともに増加する5).これらの生理学的な特徴は肺気腫に共通する特徴でもあり,エイジング自体が肺気腫発症の要因ではないか(いわゆる老人性肺気腫)と議論されてきた.肺は常に外界と接している臓器であるために,ヒト肺において,エイジングによる変化と環境曝露による外的因子による影響を弁別して評価することは不可能である.そのため,肺の加齢変化は主にマウスを使って検討されてきた.既報によると,加齢により肺容量は増加し,気腔の拡大=過膨張は認められるが,肺気腫の特徴である肺胞破壊は加齢のみでは観察されないと考えられている6).細胞外基質の変化に関しては,通常老化を呈すると考えられるBALB/cマウスや,老化促進抵抗性モデルマウス(SAMR1)を検討した報告で,加齢により全肺重量と全肺コラーゲン量が増加するが,体重や乾燥肺重量で補正すると,加齢による変化は認めず,エラスチン量・コラーゲン量や,Ⅰ型およびⅢ型コラーゲンの比率は加齢によっても変化しなかったと報告されている7).これらの結果から,近年では肺気腫=肺胞破壊はエイジング単独では生じないという考えが主流である.
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