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はじめに
わが国は昨今,急速な速さで高齢化社会に突入しようとしている.それに伴い高齢者の癌の疫学像も大きく変貌しようとしている.癌の死亡率および罹患率も加齢とともに急速に増加している.そのなかでわが国では,男性では肺癌の死亡率は胃癌を抜いてトップになり,女性でも大腸を抜く勢いである(図1).ではなぜ高齢になると肺癌の死亡率は増えるのだろうか?
イギリスの統計学者ArmitageとDollらによると,肺癌の死亡率と年齢の関係は,両側対数で示すと,性別に関わらず,傾きがほぼ直線を示している(図2).
さらにArmitageとDollらは癌の発生が多段階で起こることを数学的に見出している.このモデルに基づいて考えると,高齢者に癌が多いのは加齢による生理的変化の結果ではない.数段階を経て癌が臨床的に顕在化する年月は,ほぼ人間の寿命と同じくらいの年月を要することと関連があるのかもしれない.
老化と発癌は異なる現象であるが,両者ともに遺伝子やタンパク質の異常が蓄積して恒常性が破綻するという共通点がある.正常細胞から癌細胞になるには多段階の過程が必要である.癌細胞の発生過程に起こる細胞内の異常に対して,生体には様々なチェック機構や修復機構が用意されている.しかし,これらの機能が老化とともに減弱していたら,癌発生過程におけるステップが促進する.
また,免疫監視機構は老化とともにその機能低下がみられ,発生したばかりの癌細胞の排除機能が低下する.さらに宿主側の微小環境,バリアとしての結合組織の状態,化学物質の代謝能力など,癌を取り巻く環境が加齢とともに脆弱化することが予想される1).
一般的に加齢と癌発生率との間には正の相関がある(図2).しかしながら,加齢変化と発癌がどのような関連にあるかについては不明な点が多い.両者に関しては表1に示すとおりである1).
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