- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに―生活習慣病とメタボリックドミノ論
広く知られているように,疾患からみた65歳以上の高齢者の死亡原因としては,悪性新生物,脳血管障害,心疾患,そして肺炎などの順になる.しかし,高齢者の余命を規定する原因を単純に疾病のみに帰することは必ずしも適当ではなく,老化に伴う複数で多因的な原因を背景としていることは,いくつかの先行研究からも明らかである1,2).
一方,老化の制御,あるいは老化過程の抑制(これを“アンチエイジング”と呼ぶようであるが)には,生活習慣病の予防との間に,いくつかの共通の危険因子が存在している.
生活習慣病である高血圧症,糖尿病,そして脂質異常症(高脂血症)の罹患率は加齢に伴い増加し,それらはすべて脳血管障害(脳卒中)や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の危険因子となっている.上記の危険因子の保有ゼロを基準とすると,どれか1つを有する場合のOdd's比は5.1,2つを有する場合5.8,さらに3以上では35.8倍にまで増加するという報告もある.
これらの生活習慣病は重複・重積的に発症することからメタボリックシンドロームと呼ばれ,わが国においても2008年度の特定健診と特定保健指導の導入により広く一般に知られるようになった.また,伊藤3)は,このような生活習慣病の重積だけでなく,それら疾患の病態基盤とその発症順序,およびその合併症の進展過程を含めた全体的概念として,「メタボリックドミノ」という考え方を示している.
メタボリックドミノの概念では,ドミノ倒しの最初の駒が倒れるように,過食や運動不足など,生活習慣の揺らぎが引き金となり,まず肥満が発生する.日本人の場合,BMI(body mass index)で25から27の小太り程度でも日本人特有の遺伝的な背景や体質がベースとなり,インスリン抵抗性などの共通の病態が生じ,その結果,高血圧症,(糖尿病の前段階としての)食後高血糖,高脂血症といった,いわゆるメタボリックシンドロームの病態がほぼ同じ時期に発症すると考えられている.
一方,動脈硬化症によるマクロアンギオパチーは,すでにこの段階から徐々に進展し,生命予後に直結する虚血性心疾患や脳血管障害などの発症につながっていく.これと並行する形で,糖尿病が引き起こされ,その3大合併症である神経症,腎症,網膜症などのいわゆるミクロアンギオパチーは,高血糖の持続とともに確実に進行する.そして,最終的なカタストロフィー,すなわち,メタボリックドミノが総くずれの状態となり,心不全,認知症,脳卒中,下肢切断,あるいは腎症,失明などが複合的に発症してくるのである.
このように,メタボリックドミノは,生活習慣病の重積だけでなく,それらがどのような順序で起こってくるのかという時系列,つまり生活習慣病の“流れ”,さらにそうした危険因子がお互いに影響しあうことで,心血管イベントがドミノ倒しのように一気に起こるという生活習慣病の“連鎖”を捉えた概念であり,予防対策を考えるうえでも重要な示唆を与えている.
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.