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はじめに
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は世界規模で増加している疾患のひとつで,将来的には全死因の上位を占めると言われている1).喫煙との関わりが深いとされているが,喫煙という個人の習癖ゆえ,ある意味自業自得的な疾患とみなされ,さらには禁煙キャンペーンによって消滅する疾患であるという間違った認識から,臨床的にも,研究者の間からも,さらには政府や企業からも省みられることなく,研究は立ち遅れ,治療薬の開発も大幅に遅れている.実際には禁煙キャンペーンにもかかわらず,世界規模で増加し続け,開発途上国ではタバコに加え台所の副流煙などの別の重要因子が確認され,先進国では女性のCOPDが増加している.米国では,女性患者が男性患者を上回り,また,英国では女性においてCOPDが乳がんで亡くなる場合より多くなった.それゆえ,治療薬開発をはじめ治療法の確立のため,病因を分子レベルから突き止めることが急務である.
COPDは,長期にわたるタバコあるいは台所の副流煙などのガスに曝されることによってもたらされる疾患であり,発症に時間がかかるため,大半の患者は高齢者である.それゆえ,以前より老化との関係も論じられてきたが,それが基礎研究にまでつながることはなかった.しかし,近年の老化に関する概念の変化により,COPDと老化の関係に日が当たることとなった.
老化/加齢とは,生殖後の,段階的な恒常性維持機能の低下と定義され,病気あるいは死のリスクの増加をもたらす.加齢は,テロメアの短縮による細胞分裂の制止を含むプログラムされた加齢に加え,酸化ストレスよる傷ついたDNA修復の失敗などのプログラムされていない加齢に分けられる.最近では,インフラムエイジング“inflammaging”といった概念が提唱され,加齢を炎症として捉えられるようになった2).それゆえ,加齢とともに頻度の増す疾患,“加齢性疾患”も,炎症疾患と再認識され,改めて研究が始まっている.その加齢性疾患のなかには,骨粗鬆症,関節炎,心臓病,高血圧,癌,アルツハイマー病,白内障,2型糖尿病などが含まれ,呼吸器に関して言えばCOPDが知られている.
本稿では,加齢,炎症,COPD,酸化ストレスをキーワードにそのかかわりについて考察する.
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