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はじめに
安静時胸痛と心電図上ST上昇を伴う狭心症を異型狭心症(variant form of angina pectoris)として1959年Prinzmetalら1)が報告し,その病態として冠攣縮(スパズム)の可能性を示唆した.1970年代には,Olva2)やYasue3)らが冠動脈造影にて冠動脈スパズムの存在を証明し,その病態を明らかにした.当初,このような冠動脈の痙攣の発生機序には自律神経系4)や血管収縮因子5)などの要因が重要な役割を果たすと考えられていた.しかし,冠動脈スパズムのみられる部位には冠動脈造影上,軽度な動脈硬化の存在が指摘され6),さらに異型狭心症の診断後に突然死した症例の攣縮発生部位に一致して動脈硬化初期病変が存在することが病理的に示された7).
これらの知見より冠動脈スパズムの発生機序として,冠動脈における様々なストレスに対する局所血管での反応異常が重視されるようになった8).また,冠攣縮は異型狭心症のみならず,安静狭心症や労作性狭心症および急性心筋梗塞などの発生にも重要な役割を果たしていることが明らかにされてきた9).
冠攣縮による血流低下は血小板・血液凝固系を活性化し10),血管平滑筋細胞増殖を引き起こすことも報告されている11).実際,定量的冠動脈造影法(CAG)を用いた評価法にて冠攣縮が誘発される部位では動脈硬化が進行しやすいことが明らかにされている12).また,不安定狭心症や急性心筋梗塞といった急性冠症候群においてはその発症機転として動脈硬化病変の進行に加えて,内膜障害,血栓形成,スパズムなどの機能的因子が深く関与していると考えられる.また,わが国における急性心筋梗塞の発症ならびに突然死は夜間に頻度も高く,冠動脈スパズムが密接にかかわっているという報告もある13,14).しかし,従来のCAGにおいては冠縮攣という一過性に血管内腔の狭小化といった現象の診断方法としては十分であるが,スパズムの起こる病変を予測し詳細な形態的評価は困難であった.
一方,血管内超音波法(IVUS)では血管内腔側から血管壁を詳細に観察することが可能であり,CAGでは評価することができない血管の形態的評価を定量的・定性的に評価し,また機能的な評価をも可能であり,冠動脈疾患の病態・成因を明らかにすることが可能となった.
本稿では,臨床経過より冠攣縮の関与が強く疑われCAG上で冠動脈スパズムを確認した冠動脈に対しIVUSを用いて観察し,冠攣縮の知見およびわれわれの経験しえた自験例を交え病変部位のIVUSによる形態的特徴について解説する.
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