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はじめに
老化とは,個体に対して用いられる場合,加齢により組織や個体に認められる恒常性維持機能の低下を意味し,“aging/longevity”が用いられる.その表現型は,genomic instability(遺伝子の不安定性),telomere erosion(テロメアの浸食),epigenetic changes(エピジェネティクスの変化),loss of proteostasis(蛋白質恒常性の破綻),deregulated nutrient sensing(栄養摂取応答異常),mitochondrial dysfunction(ミトコンドリア機能不全),cellular senescence(細胞老化),stem cell exhaustion(幹細胞の枯渇),altered cellular communication(細胞間伝達の変化)である1).そのなかでも細胞老化がその集約といえる.細胞老化は,細胞が安定して増殖を休止した状態であることを意味し,“senescence”が用いられる.
Hayflickらは,1961年,培養細胞が最初は細胞分裂を繰り返すが,多数の分裂の後,細胞増殖・分裂が停止し,数週間そのままの状態が続くことを細胞老化(replicative senescence)として最初に報告している2).個体の老化と細胞老化は,必ずしもすべて一致するわけではなく区別して用いられるが,基本的には加齢に伴い老化細胞の割合も増加すると考えられている.
細胞老化の本質的な役割は,プログラムされた細胞死であるアポトーシスと同様に,傷害を受けた細胞の除去と組織の再生にあると考えられている.細胞老化は,テロメア依存性,ストレス誘導性,癌遺伝子誘導性,DNA障害誘導性,クロマチン依存性など,原因により分類される3).機序に関しては,p53-p21経路,p16-pRB経路の大きく分けて2つの経路を介する4).老化細胞の主な特徴は,1.増殖停止,2.アポトーシス抵抗性,3.遺伝子発現の変化とされる.p21,p16といった,細胞周期調節にかかわるcyclin-dependent kinase inhibitors(CDKI)の発現が亢進し,細胞周期を促す蛋白の発現は抑制され,増殖停止を引き起こす5).アポトーシスと老化は相補的役割を持つためアポトーシスには抵抗性となる.老化した細胞は,種々の成長因子や,サイトカインの遺伝子発現によって周囲の微小環境に影響を与える.これを細胞老化に関連した分泌現象=senescence-associated secretory phenotype(SASP)と呼び,癌化や変性疾患と関連している6).形態的には細長い,肥大した細胞となる.ライソゾーム内容物の増加を反映するとされる老化関連βガラクイトシダーゼ染色で陽性化や,細胞周期停止に作用する老化関連のサイクリン依存性キナーゼ阻害因子である,p21,p16,p15やp27の発現,細胞増殖に必要な遺伝子の発現の抑制と関連する細胞老化特異的ヘテロクロマチン構造などが細胞老化の指標と考えられている.細胞老化の表現型は細胞の種類や,その誘導刺激の種類,刺激の程度と時間的な要因に影響され,SASPのパターン含め,多岐にわたる(図1)7).
SASPとして老化細胞から分泌されたサイトカインや成長因子はマクロファージなど処理する細胞を遊走させる.適切に処理された場合には正常に回復するが,一方慢性的な細胞傷害の存在や加齢は,老化細胞の集積,慢性炎症,さらには線維化など構造変化と機能障害へと進展する可能性がある.老化細胞の少ない若者では,傷害を受けた細胞への老化誘導は癌抑制的に働き,線維芽細胞の老化やSASPは創傷治癒促進作用の役割を果たしていると考えられる.一方老人では,絶対数の増加と不十分な除去により老化細胞は多く存在し,過剰なSASPは,異常な組織再生や腫瘍細胞の増殖,さらには個体の老化につながると考えられる8).様々な呼吸器疾患の病態にも細胞老化は関連しており,細胞老化の制御を介した治療戦略は,いずれの疾患においても他の治療戦略と組み合わせることによって有効であることが期待される.
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