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COPDと睡眠呼吸障害についての最近の動向
COPD(chronic obstructive pulmonary disease)は,現在,呼吸器領域において最も精力的に研究が行われている疾患の一つである.近年,世界的なガイドライン(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease;GOLD)が出版され,それに基づき,わが国でもガイドラインが作成され,日本呼吸器学会をあげて啓蒙運動が展開されている.COPD患者の睡眠時には種々の異常呼吸が認められ,その結果血液ガスが増悪することは以前より知られていた.呼吸は睡眠により大きな影響を受けるが,健常者では血液ガスの変化は軽微であるのに対し,COPD患者では,特にREM(rapid eye movement)期に著しい低酸素血症が出現することが認められた.また,COPDは睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome;SAS)と合併しやすいとされ,それをoverlap syndrome1)と呼んだ.1980年代は睡眠研究の勃興期でもあり,COPDに関しても多くの論文が発表されている.しかし,その後は数が減ってきており,2000年以降では原著論文は激減している.前述したoverlap syndromeも睡眠医学の教科書とも言うべきPrinciples and Practice of Sleep Medicineの初版に掲載され,一時は人口に膾炙したが,第2版2)以降からは削除されている.また,ごく最近overlap syndromeの総説3)が掲載されているが,レビューされている論文のほとんどは2000年以前の論文である.この理由として,COPD患者に対してpolysomnography(PSG)をはじめとする睡眠検査の施行が難しいことが挙げられる.PSG検査は,脳波をはじめ,口・鼻のフローセンサー,胸腹部の呼吸運動の測定など多くのモニター類を装着して就寝しなくてはならず,通常の睡眠状態が得られ難いことが多い.SAS患者の多くは過眠傾向を有しているため,多くのセンサー類を装着していても睡眠が可能であるのと対照的である.また,COPD患者における睡眠呼吸障害(sleep disordered breathing;SDB)は,無呼吸(apnea)よりもむしろ低呼吸(hypopnea)が主体であり,睡眠時の病態がSASとは異なるため,SAS研究の範疇から外れてしまったのかもしれない.
近年のCOPD研究の隆盛は,GOLDのガイドラインの出版が大きな役割を果たしていたことは疑いがない.しかし,GOLDのガイドラインには睡眠呼吸障害あるいは睡眠障害に言及した記載は見当たらない.わずかに,COPD患者で,閉塞性障害の程度に比し,ガス交換障害の程度が著しい時は睡眠時無呼吸の合併を疑い,睡眠検査を行ったほうが良いとする記載があるのみである.一般臨床上,COPD患者が不眠を訴えたり,十分な睡眠が取れないことを訴えることがあるにもかかわらず,ガイドラインでは大きな問題とみなされていないのかもしれない.しかし,睡眠の障害は患者のQOLを明らかに阻害し,不眠の持続は鬱状態を招来する危険性がある.したがって,COPD患者のケアにおいては,睡眠呼吸障害を含む睡眠障害全体に目を向ける必要があろう.
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