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はじめに―睡眠科学の歴史
健康な生活に睡眠は不可欠であり,ヒトは人生の約3分の1を眠って過ごす.しかし,睡眠科学の歴史は浅く,睡眠の調節機構について多くの未解明の問題が残されている.一方,わが国の睡眠研究者は世界をリードする多くの発見を行ってきた.特筆すべき成果は,今年100周年を迎える愛知県立医学専門学校(現・名古屋大学)の石森国臣博士による「睡眠物質」の発見である.石森博士は,1909年,長時間断眠させたイヌの脳脊髄液を別のイヌの脳内に投与すると,投与されたイヌが眠ることを発見し,断眠中に脳内に蓄積する「睡眠物質」の存在を予言した.これが,世界で最初に睡眠物質の存在を実験的に証明した報告である.しかし,当時の睡眠測定は行動観察によるものであり,1928年にドイツのHans Berger博士が脳波を発見し,睡眠が深くなると脳波が徐波化することを応用して,初めて睡眠の質を客観的に測定できるようになった.そして,1953年にシカゴ大学のE.Aserinsky博士とN.Kleitman博士により夢を見るレム睡眠が発見され,1959年,リヨン大学のM.Jouvét博士によりレム睡眠に特徴的な脳波が発見され,レム睡眠とノンレム睡眠を脳波で区別できるようになった.現在では,様々な睡眠障害の診断や実験動物の睡眠判定は脳波に基づいて行われる.
その後,脳波測定を利用した睡眠物質の探索が世界の多くの研究者により進められ,数十種類にも及ぶ候補物質が現在までに報告された.わが国でも井上昌次郎博士(東京医科歯科大学名誉教授)によりウリジンやグルタチオンなどの睡眠誘発作用が発見された.そのなかで,1982年に京都大学の早石修博士(現:大阪バイオサイエンス研究所理事長)のチームにより,中枢性の体温調節の研究中に偶然に睡眠誘発作用が発見されたプロスタグランジン(PG)D21)は,様々な睡眠物質のなかで最も強力であり,極めて生理的な睡眠が誘発されることから,内因性睡眠物質の最有力候補である.
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