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はじめに
糖尿病は世界的に増加しており,その制御は極めて困難な状況にある1).本邦でも2002年度糖尿病実態調査では糖尿病と強く疑われる人は約740万人,糖尿病の可能性が否定できない人を併せると約1,620万人であったが2),2006年国民健康・栄養調査結果ではそれぞれ約820万人,約1,850万人とさらに増加している3).
糖尿病の存在は寿命を10年から15年短縮させることが分かっている4).さらに一般日本人の死因の第1位は悪性新生物であるのに対して糖尿病患者では冠動脈疾患である.フィンランドの大規模コホート研究から,糖尿病患者は心筋梗塞の既往がなくとも,その既往を持つ非糖尿病患者と同程度の死亡のリスクを持っていることが分かっている5).さらに非糖尿病患者と比較して,不安定狭心症を発症した糖尿病患者では心筋梗塞を合併しやすく,心筋梗塞を合併すれば死亡する可能性が高い6,7).したがって,糖尿病患者における冠動脈疾患治療は狭心症の改善だけでなく心筋梗塞・冠動脈疾患による死亡を予防し生命予後を改善することが特に重要である.
糖尿病患者における冠動脈治療の問題点は,各患者間で罹病期間,血糖コントロールにより糖尿病進行度は異なり,また同一患者でも進行度は経時的に変化していることである.つまり,糖尿病患者では冠動脈病変の重症度だけでなく,糖尿病進行度により心筋梗塞発症・冠動脈疾患による死亡のリスクが推移している.例えば,同程度の冠動脈狭窄病変でも軽症の糖尿病と重症の糖尿病では心筋梗塞発症・冠動脈疾患による死亡のリスクは後者のほうが高い.したがって,糖尿病患者における冠動脈治療のポイントは,1)糖尿病患者のなかで心筋梗塞・冠動脈疾患による死亡のリスクが高いグループを同定し,冠動脈疾患を早期診断する,2)心筋梗塞・冠動脈疾患による死亡のリスクが高いグループには生命予後改善効果の大きい治療法を選択する.以上の2点であり,糖尿病患者全体の平均寿命を効率的に改善する方法である.
冠動脈疾患に対しては薬物治療,ライフスタイルの改善に加え,カテーテル治療(PCI)と冠動脈バイパス術(CABG)が治療の中心となっている.非糖尿病患者・糖尿病患者全体におけるCABGの生命予後改善効果に関しては既に1994年にメタ解析によりその効果が証明されている8).また,その生命予後改善効果は左冠動脈主幹部合併病変・低心機能症例など高リスク群において大きいことが示されている.一方,PCIはCABGと比較して低侵襲・早急に責任病変の治療が可能という利点があり,急性冠症候群に対しては良い適応である.しかし,慢性冠動脈疾患に対するPCIは薬物治療と比較して生命予後改善効果・心筋梗塞発症予防効果を有さないことが分かっている9,10).このようなエビデンスにもかかわらず,従来のステント(bare-metal stents;BMS)と比較した薬剤溶出性ステント(drug-eluting stents;DES)による再狭窄率の改善に伴い11)糖尿病患者の慢性冠動脈疾患に対してもPCIが増加しているのが現状である.
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