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ALI/ARDSの脅威
ALI/ARDS(acute lung injury/acute respiratory distress syndrome)は日常しばしば遭遇する病態である.急性呼吸不全として救急受診することが多いが,外科手術の術後など院内で発症してくることも多い.ALI/ARDSの発症頻度は,診断基準や母集団など報告によって様々であるが,1992年のAmerican-European Consensus Conferenceの定義以後の報告では,ALI,ARDSともにおおよそ人口10万人当たり年間10~20人程度との報告が多かった1).しかし,最も新しい米国の調査では,ALIの発症率は人口10万人あたり78.9人,ARDSは58.7人とこれまでの報告よりずっと多いものだとわかってきた2).ARDSの死亡率は,20年前より改善してきたとはいえ,いまだに40~50%と高い.したがって,年間74,500人がALIで,59,000人がARDSで死亡しているという.これは乳癌(41,528人)やAIDS(14,802人),喘息(4,657人)の年間死亡者数を上回っており,ALI/ARDSが決して稀な疾患ではなく,日常的に国民の健康に脅威を及ぼす疾患であることが認識されてきた.また,ALI/ARDSはICUでの治療管理が必要であり,医療資材,薬剤,設備,スタッフなどに莫大な費用を要するため医療費の面からも問題となってきた.
米国では,これに対処するためALI/ARDSの治療法開発のために国家的に予算が投入され,また,新しい治療法の有効性を検証するための組織であるARDS Clinical Networkが結成され一定の成果を挙げてきた.これに対して本邦では,残念ながらALI/ARDSの脅威が一般の問題に上ることは少なく,特別な研究体制が組織されたこともないし,臨床的な医療機関の連携もなされていない.しかし本邦では,世界で唯一ALIの治療を目的とした薬剤であるsivelestatが開発され,広く臨床使用されているという事実もある.
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