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最近1~2年間の肺気腫をめぐる全般的話題
肺気腫は組織学的に広範な肺胞壁の破壊と消失を特徴とする慢性進行性の疾患である.その発症機序として,1963年にLaurell & Erikksonがα1-アンチトリプシン欠損症の患者では肺気腫の発症頻度が高いことを報告して以来,いわゆるエラスターゼ・アンチエラスターゼ不均衡説が広く信じられてきた.この仮説では喫煙刺激により肺に集積した好中球やマクロファージから放出されたエラスターゼが肺組織を破壊して気腫化をもたらすものと説明している.しかし,肺炎のように肺に多数の好中球やマクロファージが浸潤する病態においても気腫化はみられないことから,肺気腫の発症機序を十分に説明するものではない.最近では肺気腫における発症機序として肺胞上皮細胞や血管内皮細胞のアポトーシスが注目されている1,2,4,6)
Kasaharaらは,肺移植のレシピエントとして摘出した肺気腫組織を検討した結果,肺胞上皮細胞や血管内皮細胞のアポトーシスが健常肺組織に比べて数倍に増加していることを明らかにした1).われわれも肺容量減少術により摘出された肺気腫組織を検討したが,肺胞上皮細胞のアポトーシスが健常肺組織に比べて有意に増加していた.Kasaharaらは,このような肺胞壁細胞におけるアポトーシスの原因として,vascular endothelial growth factor(VEGF)の活性が低下しているために肺血管内皮細胞がアポトーシスに陥るのではないかという仮説を提唱している.彼らの検討によれば,ヒトの肺気腫組織では健常肺組織に比べて,VEGFやVEGFレセプターの発現量が低下していた1).またKoyamaらは,喫煙者のBAL液中のVEGF濃度は非喫煙者に比べて著減していることを報告した3).さらにKasaharaらは,VEGFレセプター阻害薬SU5416を3週間ラットに皮下注射したところ肺血管内皮細胞のアポトーシスに引き続いて肺の気腫化が生じることを見出した4).このような結果から,Kasaharaらは肺気腫患者では肺胞上皮細胞からのVEGF産生が減少し,肺血管内皮細胞がアポトーシスを生じるために肺胞壁が破壊されるのではないかと推測している.
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