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はじめに
最近になり,心房細動は「古くて新しい不整脈」として以前にもまして注目されてきている.社会の高齢化により,この不整脈に遭遇する機会が実地臨床で多くなったことは当然であるが,同じような年齢層であっても過去よりその罹患率が高くなっているという感すらあり,その罹患人口の増大は社会的に問題となっている.さらに,この不整脈は,不整脈自体として問題となるばかりか,この不整脈に付随する脳梗塞発症の危険性増大が,むしろ医師にとっても患者にとっても重大な心配要素となっている.一見健康な姿で通院していた患者が,ある日突然片麻痺になったという報告を受けた時,医師としてもうすこし何かできなかっただろうかという痛い反省をした経験をもつ医師の数は筆者も含めかなり多いだろうと思われる.ある意味,患者自身の,あるいはその家族の人生という観点からみると,心房細動自体よりもそれに伴い発症する重篤な心原性脳梗塞のほうがむしろ重大な問題であり,そのことを認識している医師人口は循環器専門医に限らず確実に増加している.
過去には基礎心疾患や症状がなく,その心拍数も適度にコントロールされている心房細動は,「孤立性心房細動」と称され,特に治療は不要であるとされてきた時代もあった.しかし,このような時代はいまや過ぎ去った.「心房細動」という病態のもつこのような側面が最近とみに注目されてきた結果,心房細動患者をできるだけ洞調律に回復させたい,あるいは洞調律に維持したいと考えることがいまや当然の考え方となりつつある.基礎的にみても心房細動の持続によっていわゆる「電気的リモデリング」が形成され,その結果,より心房細動が難治性となることが知られるようになっている.その意味で基礎的な観点からもますます洞調律維持の重要性が叫ばれている現況といえよう.
このような洞調律維持の重要性は,医学的見地から考えた場合にはそれを否定する根拠はまったくなく,厳然と正しい認識であるというべきである.ただし,「心房細動」はcommon diseaseであり,医学ではなく医療,Medical Practiceという観点からの認識も同時にもっておく必要があり,この側面がこの不整脈を扱う場合の問題を難しくしている.医師と患者,さらにその関係が存在する社会全体を考えた時,症状のある心房細動患者の洞調律維持という治療方針は医学的のみならず医療的にも支持される正しい治療方針である.一方で医師,患者ともにその対処に悩む対象として,症状のない心房細動が大きくクローズアップされつつある.このような無症候性心房細動に対する治療の在り方に現在ゴールドスタンダードはないと言わざるを得ず,受け持ちとなった医師個人の考え方によりその治療法が異なっているというのが現在の現状であろう.
本稿では,このような解答のない現状のなかで,無症候性心房細動の治療の在り方をMedical Practiceという面を重視して論じる.
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