巻頭言
22世紀へ向けた呼吸器学研究フロンティア
長瀬 隆英
1
1東京大学大学院医学系研究科・呼吸器内科学
pp.1277
発行日 2006年12月1日
Published Date 2006/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404100503
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21世紀を迎えた現在,呼吸器領域疾患の社会的重要性は急増しつつある.気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患や肺癌などの患者数,死亡者数は年々増加しつつあり,増勢に歯止めがかからない状況にある.世界的にも,WHOによる予測では,2020年の死亡要因の第3位が慢性閉塞性肺疾患,第4位が下部呼吸器感染症(肺炎など),第5位が肺癌,さらに第7位が結核と予想されるなど,呼吸器領域疾患による死亡者数の急増が予見されている.例えば米国においては,過去40年間で,虚血性心疾患や脳血管障害による死亡数が著明に減少しているのに対し,慢性閉塞性肺疾患による死亡数は倍増の勢いにあり,今後も増加傾向が続くと予想されている.日本においては,タバコ消費動向などから類推するに米国から約30~40年のラグがあり,慢性閉塞性肺疾患や肺癌の患者数,死亡者数はさらに急峻な増加を示す可能性がある.また,わが国においては,今後,アスベストによる間質性肺炎,胸膜中皮腫,肺癌などの呼吸器疾患も急増することも予想されている.
さらに,新興・再興感染症も緊急の課題である.2003年に全世界に蔓延した重症急性呼吸症候群(severe acute respiratory syndrome;SARS)や,今後の世界的流行・発生が懸念される鳥インフルエンザや新型インフルエンザなど,重大な新興感染症のほとんどは呼吸器をターゲット・オーガンとし,呼吸不全により宿主であるヒトを死に至らしめる.一方,再興感染症としての肺結核も,多剤耐性菌感染や高齢者結核などを中心に,その重要性が再認識されつつある.
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