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釧路糖尿病医療学研究会のはじまり
糖尿病の臨床現場では,患者心理に配慮した対応をしなければ診療が順調に進まなくなることがしばしば経験されます.そのような場合に『傾聴』『共感』をベースとしたコミュニケーションが重要だといわれていますが,こうした『傾聴』『共感』のコミュニケーションが実際の医療現場で行えるよう,医療スタッフがトレーニングをする機会はきわめて少ないのではないでしょうか? 単なる医学的な糖尿病の知識を修得するだけでは,糖尿病診療ができないことは多くの方が理解されていると思いますが,では実際に何をどのようにしていけばよいかは試行錯誤されている状況だと思われます.
この『糖尿病診療マスター』の誌上で石井 均先生が『糖尿病医療学』の連載〔編集部注:「糖尿病医療学入門」(5巻1号〜19巻3号)〕をされていた当時,私はこの内容が難しく正直あまり理解できないで読み飛ばしていました.この連載が1冊の本になり(編集部注:『糖尿病医療学入門—こころと行動のガイドブック』医学書院刊),まとめて読んでみた時に,今度は何だか少しわかったような気がしていました.これまで暗中模索であった,『傾聴』や『共感』という『コミュニケーション』に手が届くような気がしていました.でも,実際の目の前の患者さんに応用しようと思ってもどうしていいかわからない.そこである時,僕は石井 均先生に質問してみました.「先生の『糖尿病医療学』の本を読みましたが,いざ診療の現場で使おうとしても,ちっともうまくいきません」と.石井先生は,正確ではないですがこんな感じでお答えしてくれました.「先生なあ,その本の中に先生の患者はおるか? おらんやろ? その本の中には多少のヒントになることが書いてあるかもしれんけれども,実際の患者に応用していくのは先生自身なんや.むしろ先生がどのように対応されてどうなったのかを,今度私に教えてほしい」と.概念と実践とのギャップに悩まされている私に,厳しくも優しいお言葉でした.
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