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はじめに
1970年代後半に,急性呼吸促迫症候群(ARDS)や急性肺傷害(ALI)における肺組織にフィブリンの異常沈着の認められることが指摘され始めた.以後,これらの病態における病理学上の際立った特徴の一つとして,肺胞や間質へのフィブリン沈着が挙げられるようになった.
正常な肺組織は,凝固系活性をほとんど認めず,ウロキナーゼを中心とした線溶系が優位な環境であることを考慮すれば,ARDSやALIにおいて認められるフィブリン沈着は,この凝固線溶系の恒常性が,これらの肺組織において破綻していることを意味する.すなわち,凝固系活性が亢進し,線溶系が抑制されているのである.ARDS/ALI患者から採取した気管支肺胞洗浄液(BAL)における凝固線溶系の解析が報告されているが1~3),凝固系亢進,線溶系抑制を裏付ける結果が得られている(表1).
凝固系亢進の最も大きな要因は組織因子(第Ⅲ因子,Tissue factor:TF)の傷害部位での出現であり,いわゆる外因性凝固系が開始され,トロンビンの活性化,そしてフィブリン形成が認められる.凝固系がARDS/ALIの病態にどのような影響を与えているのかについては,まだ定まった見解を見出せていないが,凝固系と炎症メディエーターは“cross-talk”しながら互いにその反応を増幅しあうという実験結果は数多く報告されており4),亢進した凝固系が肺傷害を促進させている可能性がある.引き続いて線溶系が抑制されるのであるが,その抑制に最も関わっているのがPlasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)の発現である.線溶系活性の維持が,急性肺傷害に引き続いて発生する肺線維化の伸展を抑制することは,われわれを含む幾つかのグループによる研究成果で明らかになってきているが5),そのARDS/ALIの病態への関与は未だ確立されていない.
これらの点を踏まえて,本稿では,凝固系,線溶系について概略し,次いで凝固系の抑制,あるいは線溶系の活性維持がARDS/ALIの病態においてどういう影響を及ぼしうるのか,動物実験,臨床試験を含めて概説する.
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