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肺血栓塞栓症をめぐる最近の話題
1 治療選択と予後判定における心臓バイオマーカーの役割
最近,急性肺血栓塞栓症の予後の推測に,さらには治療選択の手がかりとして,トロポニン,BNP(brain natriuretic peptide),pro-BNP,N-terminal(NT)-proBNPといった心臓由来のバイオマーカーが有用であることが示されている.
トロポニン複合体は,骨格筋と心筋の両者において筋収縮の調節を行っており,トロポニンC,トロポニンI,トロポニンTの3つのサブユニットが存在する.トロポニンTとトロポニンIは心筋と骨格筋とではアミノ酸配列が異なるため,心筋トロポニンTと心筋トロポニンIは感度,特異度ともに高い心筋傷害のバイオマーカーとして知られている.最近,急性肺血栓塞栓症でも急性期に上昇し,心臓超音波検査における右室の機能不全とよく相関していることが示され,トロポニンの上昇は予後不良の指標となりうることが示された1~4).急性肺血栓塞栓症の際のトロポニンの上昇は右室の微小梗塞によると推測されており,急性心筋梗塞では長期間にわたって高値を示すが,心筋梗塞と比較すると上昇の程度も軽度で短期間で正常化する.
BNPは心臓で産生分泌される心臓ホルモンであり,心房よりも主として心室心筋で産生され,心室の伸展刺激により産生分泌が亢進し,血管拡張作用,ナトリウム利尿,利尿作用などを有する.現在,血中BNP値測定は,心不全の生化学的マーカーとして診断,治療効果判定,予後診断などに使用されているが,急性肺血栓塞栓症でも血中BNPや前駆体pro-BNP,pro-BNPからの産物であるNT-proBNPがトロポニンと同様に急性期には上昇しており,右室機能不全と相関している5~7).ホルモン前駆体は正常心筋には十分には貯蔵されておらず,急性の心筋伸展を受けてから上昇するまでに数時間を要する.血漿半減期はBNPが約20分,NT-proBNPが約60~120分である.また,こうしたナトリウム利尿ペプチドは急性肺血栓塞栓症以外の右室圧負荷を有する各疾患(原発性肺高血圧症,慢性肺血栓塞栓症,慢性閉塞性肺疾患)でも上昇していることが示されている.
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