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レニン・アンジオテンシン系生理活性物質は,高血圧,心不全などの循環器疾患の病態において交感神経系生理活性物質と並んで重要な役割を担っている.レニン・アンジオテンシン系生理活性物質の発見の歴史は,1898年にレニンが初めて同定され1),続いて1940年にアンジオテンシン,1958年にアンジオテンシン変換酵素(ACE:angiotensin converting enzyme)が同定された2,3).1970年代に入ると,心不全の病態にレニン・アンジオテンシン系が関与していることが報告され,1970年代後半にACE阻害薬の登場とともに,強心薬と利尿薬が中心だった心不全治療に大きな変革をもたらした4).さらに1990年代後半にアンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬(ARB)が相次いで登場し,ACE阻害薬などとの大規模比較試験が数多くなされている.
このようにレニン・アンジオテンシン系システムは,交感神経系システムとならんで循環器治療薬にまで応用された数少ない神経体液因子の経路である.この循環器領域において重要とされるレニン・アンジオテンシン系システムと交感神経系システムの両者が,「増殖因子の遊離」という共通のシグナルを介することが最近明らかとなった5).カテコラミン,アンジオテンシンは重要な心肥大惹起物質としても知られているが,すべて7回膜貫通型のG蛋白共役型受容体(GPCR)に結合することにより細胞内シグナルを伝達する.GPCR刺激は,ERKやcalcineurin, P70S6キナーゼを活性化することにより心筋肥大シグナルを伝達することが知られていた.これらの心筋肥大シグナルの上流にEGF受容体のチロシンリン酸化が関与することが報告され,GPCR活性化とEGF受容体活性化の関係が注目されていた6).1999年,Nature誌にGPCR活性化に引き続くEGF受容体活性化メカニズムにメタロプロテアーゼによる増殖因子の遊離が関与することが報告された7).本メカニズムで遊離する増殖因子は,HB-EGF(heparin-binding EGF-like epidermal growth factor)であり,1991年に同定されたEGFファミリーに属する増殖因子である8).このHB-EGF増殖因子の遊離が心筋細胞において,アンジオテンシンやカテコラミンシグナルにおいて重要な役割を演じている.本稿では,このシグナルを中心に概説する.
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