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肺気腫治療の現状
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは,完全には可逆的ではない気流制限により特徴づけられる病的状態である.気流制限は通常進行性で,吸入された有害な粒子やガスに対する肺の異常な炎症反応が伴っている病態である1).気流制限は,吸い込まれた有害なガスの量や,末梢気道の炎症反応により生じる肺実質破壊の程度により起こる.健常者でも気流制限は様々な程度で起こりうる.WHOと世界銀行が行ったGlobal Burden of Disease Studyによる1990年の世界有病率は,1,000人当たり男性9.34人,女性7.33人である.現在増加傾向にあり,1990年の死因の第6位から2020年には第3位に上昇するとの予測である2).日本においても,現在約5万人がこの疾患により在宅酸素療法を受けている.2001年に発表された肺疾患疫学調査研究会が行った調査によると,COPDは本邦において,未治療の患者を含めると,推定患者数は530万人で現在も増加傾向にある疾患である3).治療法としては,現在のところ酸素吸入療法以外には有効な治療法はなく,この病態の進行を遅らせる手立てもないのが現状である.肺気腫に対して,volume reduction surgeryや肺移植術が行われ始めている.手術侵襲や周術期の合併症を乗り越えた症例では,その効果は多大なものである.しかし,多くの肺気腫症例では全身状態が非常に悪化していることが多く,全身麻酔自体が大きな危険を伴うため,手術治療成績は満足できるものではない4,5).COPDでは呼吸細気管支壁と肺胞壁が破壊され,肺胞が拡張して呼気が十分に行えない.また,肺胞拡張により肺動脈圧の上昇が認められ,肺動脈圧の上昇はVQ shunt の増加を伴い換気効率を悪化させる6).肺胞の再生を誘導させることができれば,根治的な治療になると考えられる.既に分化能力の高い骨髄由来細胞を用いた治療が試みられている7,8).しかし,成人において一度壊れた肺胞の構造的・組織学的再生は難しく,動物実験では組織学的再生が得られないなどの報告もあり,今後さらなる検討が必要と考えられる9~11).
もう一つ臨床応用への可能性をもつ治療的方法として,細胞増殖因子を用いて再生を誘導させることが考えられる.例えば,血管新生増殖因子を用いて血管新生を促し,肺動脈圧を低下させVQ shuntを改善せしめ,ひいては換気効率の改善をもたらす.また,血流増加により鍵となる細胞をその部位に誘導するか,あるいは血流により再生に必要となる液性因子を供給し,その結果として肺胞の再生を促進することにより,壊れた肺胞構造の組織学的再生を促進しCOPDの症状を改善させることが可能であると考えられる.このような血管新生増殖因子の例としては,線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor:FGF),肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor:HGF),血管内皮細胞増殖因子(VEGF),血小板由来増殖因子(PDGF),トランスホーミング増殖因子(TGF),Matrix Metalloproteinases Inhibitor(MMP Inhibitor),アンジオポエチン,アンジオスタチン,アドレノメジュリン,インターロイキン,ケモカインなどの生理活性タンパク質およびペプチド,ならびにプロスタグランジンなどの生理活性低分子物質などが挙げられ,現在検討が繰り返されている.
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