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はじめに
肺線維症は慢性的に進行する呼吸器疾患に共通する最終病態と捉えられ,慢性間質性肺炎,ウィルス感染,肺高血圧症などによって引き起こされる.主たる病因を特定できないケースも多く,この場合は特発性肺線維症の範疇に分類されている.病理組織学的には肺気管枝上皮細胞や肺胞細胞といった実質上皮細胞の脱落ならびにコラーゲンなどの細胞外マトリックスの過剰沈着によって特徴づけられる.組織線維化の過程において間質に形成された筋線維芽細胞(myofibroblasts)が細胞外マトリックスの産生に中心的な役割を担う.臨床的にも筋線維芽細胞の過形成の程度と慢性呼吸器疾患の予後には正の相関が認められることが知られている.このような細胞応答は脱落した実質細胞領域に対する補腔を目指した一種の病的代償(=リモデリング)と考えられている.間質線維化に陥った臓器をふたたび再生に導くためには間質を占拠した筋線維芽細胞および細胞外マトリックスを取り除く必要がある.肝臓や腎臓のように再生能が高い臓器では筋線維芽細胞でのアポトーシス誘導を介して肝硬変や腎硬化症の病態をリバースできることが近年明らかとなっている.一方,肺は自己修復能に乏しい沈黙の臓器といわれており,線維化/呼吸器不全に陥った病態では肺実質組織の再建は困難と考えられてきた.
肝再生因子としてわれわれが精製,遺伝子クローニングを行ったHGF(肝細胞増殖因子:hepatocyte growth factor)は肝臓のみならず,腎臓や消化管などの多くの臓器に共通する組織再生因子の実体である.HGFは肺においても実質組織の修復・保護に必須の生理的役割を担っている.われわれは,動物モデルを用いた研究によりHGFが様々な急性・慢性の肺疾患において肺再生を促し,呼吸器不全の病態を改善することを明らかにしてきた.われわれによる最近の研究から,様々な慢性呼吸器疾患の共通病態である肺線維症に対してHGFは間質側(すなわち,筋線維芽細胞)に直接作用し,細胞外マトリックスの融解,筋線維芽細胞のアポトーシス誘導を介して線維化病変をリバースすることがわかってきた.
本稿では,肺間質に対するHGFの新たな機能を紹介したうえで,HGFによる慢性呼吸器疾患での自己再建療法の可能性についても述べたい.
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