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大腸憩室に起因する疾患は欧米に非常に多く,autopsyの統計でみると80歳以上の高齢者の半数以上に認められるが,一方,南アフリカの黒人2,000例のautopsyではただの1例しか見出せなかった.しかし,大腸憩室疾患は昔から欧米に多かったわけではなく,1920年を境に急速に増加してきたという.そして,その増加は,実に,イギリスに始まり全ヨーロッパに広まった鉄製の製粉機の普及と軌を一つにしているという.旧式の臼でひいた小麦粉には0.5%の線維分が含まれているが,製粉機で精製されたものではその量は10分の1に減じ,これが大腸憩室疾患の増加につながっていると推定されている.すなわち,線維成分の多い食物を食するアフリカやラテンアメリカ諸国における調査では,成人の1回便排泄量は400g以上で,食物の腸内通過時間は24~36時間であるのに対し,欧米諸国においては,1回便排泄量は100gと減じ,逆に食物の腸内通過時間は72時間と延長する.サル・ウサギなどの動物実験でも確かめられているが,低残渣食投与による便量の減少および食物の腸内通過時間の延長は結腸,特に左側結腸内圧の亢進を招来する.亢進した内圧は,結腸ヒモの腹膜側の結腸小動脈が輪状平滑筋を穿通する部位に加わり,この部位を圧出して小さな憩室を形成させる.すなわち,大腸憩室は後天的に形成さると推定されている.この憩室は,しばしば,憩室炎や下部消化管出血の原因となっている.上部消化管に出血源の見出せない消化管出血患者(便潜血反応陽性を含む)では,まず,大腸憩室からの出血を疑うことが欧米の常識となっている.その診断には注腸・内視鏡検査・血管造影などが頻用される.また,しばしば合併する憩室炎の治療には,グラム陰性菌に抗菌力を持つ抗生剤や高線維食が有効であるという.食生活に欧米化の進む日本で,はたして大腸憩室疾患は増加するであろうか.
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