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はじめに
わたくしどもが腹腔鏡検査法を手掛けてから早くも15年間の歳月が経過した.この間にスコープ,撮影器具,手技などの改良が行われ,また対象とした疾患は肝,胆,胃前壁,小腸,大腸の一部,脾,腹膜などの疾患,すなわちその炎症,腫瘍,結石,癒着などの変化,さらに一部血液疾患,後腹膜疾患,婦人内性器疾患などにおよんでいる.本検査法が今日のごとく広く用いられ,また高い精度をもつ診断法としてもてはやされるのは単に内視鏡としての特徴のみでなく本検査法に併用される補助診断法によって検査精度が向上し,さらに適応範囲が拡大したこと,および生検標本による組織学的診断のうらづけが得られたためである.本検査法の補助手段として主に直視下生検,穿刺,さらに直視下造影,超音波検査,同位元素の使用,門脈造影などがあり,記録手段として写真撮影のほかに映画,TV,2方向接眼鏡の使用などが試みられている.これら補助診断法の各種疾患に対する適応を第1表に示した.
びまん性肝疾患の際には何といっても生検以外に確診はないが,超音波探触子の使用によって肝硬変,および肝内悪性腫瘍の症例などでは特有のechoを検出することも可能である.胆道疾患に対しては腹腔鏡の併用法のうち直接造影法と超音波法の優劣が問題となるが,後者の利点としては直視下の非観血的操作なので胆汁漏出などの危険は全くない.癒着下,漿膜面内部の変化を反射エコーより推測することも可能であり,完全閉塞の黄疸例ではその原因が結石か悪性腫瘍かの鑑別可能な症例もある.胆,肝疾患以外の実質臓器疾患にも応用されうるが,現在の段階では操作に一定の習熟が必要なこと,再現性が少いことなどの短所もある.直接造影法はこれに反して再現性にすぐれており,閉塞位置が確認できること,特に超音波法で確定しにくい下部胆管閉塞に際して威力を発揮はするが,細心の注意をはらっても,また刺入部位に対して接着剤の使用を行っても胆汁漏出の危険を有する.また胆囊壁をたしかめ,穿刺し吸引して胆汁が得られる場合以外は検査を進めることは不能であるなど厳密には両者の適応はややことなり互に補って使用さるべきものと考えられる.後腹膜疾患に対する本検査法の能力としては腫瘍の症例以外には診断的価値は少いが目的疾患が腹腔内のものであるか,後腹膜性かを鑑別するといった意味では有効であろう.腹腔鏡検査のみによる肉眼的診断率を生検,剖検,手術などによる最終診断で決定してみると現在までの全診断適中率は77.7%に達する.
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