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編集後記
中村 恭一
pp.118
発行日 1986年1月25日
Published Date 1986/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403110085
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診断に際しては,種々の病変あるいは所見を熟知していれば問題はなく,それらを知ることこそが重要であるとする考え方がある.このことは,物識り博士あるいは動く辞書となることを指向してのことである.しかし,人生には限りがあるから,自ずと個人の経験量にも限界がある.また,診断に際して個人の辞書にないことに遭遇した場合には,思考が停止する.更には,個々のことをのみ熟知していて,互いに関連のない,つまり体系化されていない知識のみで良いとするならば,それは医学を知らない素人で十分である.ここに於いて,多くの既知のことをある前提のもとに互いに関連づけることが必要となってくる.診断に際しては,体系づけられた知識という“フィルター”あるいは“ふるい”にかけることによってこそ誤りのない判断が可能となり,未経験のことに遭遇した場合には弾力的に思考することができ,また,そこから新しい命題が派生してくる.本号は,まさしく,消化管全体の病変について学際的な診断体系を確立しようとする,その試みである.この企画が模索の段階であるにもかかわらず,本号からは新しい見方あるいは考え方の芽生えを察知することができる.例えば,複雑なX線・内視鏡・肉眼・顕微鏡的図形を,連続的変形によっても保存されるような図形の質を取り上げていること,病変あるいは変形を位と相の両面から眺めていること,などである.図形を対象とするものには,絵画観賞,幾何学がある.絵画観賞は感性に,幾何学は知性に訴えるものである.X線・内視鏡・病理組織診断学は同じ図形を取り扱う学問であるからには,幾何学に見られるような美しい体系に一歩でも近づくことが必要であろう.
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