Coffee Break
早期胃癌の“聖域”と「イーリアス」
竹本 忠良
1
1山口大学第1内科
pp.983
発行日 1985年9月25日
Published Date 1985/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403109786
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早期胃癌用語に,“聖域”ないし“聖域型”という言葉がある.たしか,村上忠重先生から直接お聞きした記憶があるが,この用語,ベトナム戦争で米軍が意識的に爆撃を避けた某都市を,新聞が“聖域”と呼んだことにヒントを得たということである.
最近,ある雑文を書く必要があって,J.ホイジンガの名著「ホモ・ルーデンス」(第19版,高橋英夫訳,中央公論社,1984年)を再読していたところ,「裁判が行なわれる場所は〈法廷〉である.すでに『イーリアス』の中には,アキレウスの楯の上に裁きの長たちが描かれていたことがうたわれている.そこで言われている〈聖域 iepos kukios〉というもの,これがはや,言葉の最も完全な意味での法廷なのだ.法の裁きが告げられる場所は,すべて真の〈神苑〉であり,日常の世界から遮られ,特別に柵で囲われ,奉献された場なのだ」とあった(p.140).そこで,ホメーロス「イーリアス」(下巻,呉 茂一訳,岩波文庫)をみたが,原注の指定ページには,「長老たちが,神聖な円形の中の磨いた石の座にすわり込み,声を張りあげる伝令使らの笏杖を(借り)手に捧げ保ち,さて次々にその杖を執り,突っ立ち上がって,交る交るに裁きを述べた.その真中には黄金の錘が二つ置いてあり,みんなの中でもっとも正しい裁きを述べた者に授けることになっていた(ママ)」とあるだけである.いま,「イーリアス」2巻を精読するひまはないが,文庫の文章,「ホモ・ルーデンスの」p.144~145にも説明があり,ここにも聖域という単語が繰り返し出ている.
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