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早期胃癌の日本内視鏡学会分類が設定されて10年余になるが,その頃から既に胃癌の経過を分析する気運が生まれていたように思う.内視鏡学会分類の設定を契機に,発見される早期胃癌の数も非常に多くなったが,その中には,当初,良性と誤診していて結果的に経過を観察したような症例も含まれていたので,胃カメラ写真の優れた記録性・再現性を利用して,これ等の症例を詳細に検討することにより,胃癌の経過を逆追跡する研究方法に関心を持つ臨床家が急速に増加してきた.それにつれて,これら発見された早期胃癌と進行胃癌との結びつきについても,より多くの議論がなされるようになった.すなわち,胃癌の発育進展速度はどうなのか,どのような形の早期胃癌がどのような形の進行胃癌になるのか,または,進行胃癌の早期像はどのような形を呈するのか,等等である.このような気運の中で,この逆追跡法を用いて各早期胃癌の発育過程の内視鏡的,X線学的分析が行われ,更にそれを最終的に手術で得られた組織像と照合するという研究が着々と進められてきた.以来,現在までに関連学会においても,胃癌の経過という問題がシンポジウム等のテーマとして幾度か取りあげられ,この「胃と腸」においても,この問題に色々な側面から(たとえば,3巻7号「胃癌の発生」,3巻13号「陥凹性早期胃癌の経過」,5巻1号「胃癌の経過」,7巻5号「悪性サイクル」など),取り組んできたことは周知の通りである.
胃癌の経過に関するこのような研究の歴史をふりかえってみると,この10年の実りは実に大きい.この歩みの中で先ず最初に問題にされたのはある程度の拡がりをもったⅡc型の早期胃癌が,かなり遅発育型であるということ,次いでⅡcの中に存在する潰瘍の息吹き,いわゆる悪性サイクル現象の臨床研究面からの発見であった.同時にまた,初めの頃発見されていた早期胃癌のほとんどがⅡc型であったという事実から,日本で発見されている早期胃癌は,果して本当に,進行胃癌に繋がる意味での,“early”cancerであるのか,あるいは別個の性質を持った癌ではないのか,という疑念を抱くものも決して少くはなかった.すなわち,従来胃癌の経過を主題として持たれたシンポジウムや多くの症例報告で発表された内容は,ほとんどが陥凹型の早期胃癌を中心とするもので占められていたのである.
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