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一昔前は,胃癌の経過を研究する手段としては,切除された胃癌にっいて,その組織検索を詳しく行って,それが,かつてどのような経過をとって来たのかを推定した.例えば潰瘍の辺縁に癌があれば,潰瘍を母地として,またpolyp型の癌があればpolypを母地としてというようなことが言われ,しかも人によってはかなりの高率の数字を挙げ,潰瘍やpolypを見付ければ,それはたとえ良性であっても癌と同様と見なされ,切除されることが多かった.しかし,最近,胃の診断学は著しく進歩普及し,初診時における病変の良悪性の鑑別が的確となり,良性のものならばそれをきめ細かく経過追及することも行なわれるようになった.その結果,初め良性潰瘍と診断されたものが確実に悪性に変ったと思われる症例のないことが分ってきた.きめ細かく経過を追った症例で,もうそろそろ10年あるいは,それ以上になるものが各施設にある筈なのに,少くともその期間内にはそれと思われるものはない.もっと長期の,またもっと多数の例を集めることが今後の課題と言えよう.このような研究を行なっているうちに,それは生検が未だ広く行なわれていない時代の副産物とも言えるが,癌巣内にある潰瘍が縮少し,また再び拡大するといういわゆる“悪性サイクル”のあることが分って来たことは既に衆知のことである.
一方,良性polypのfollow-upも各所で行なわれているようであるが,その多くは初診の時点からかなり長年月に亘ってもあまり形を変えず,なかには脱落消失するものもある.稀に多少大きさ,形を変えるものもあるが,それが癌に変ったとの報告は殆んどない.polypの癌化については,未だ多くの問題が残されているが,この場合も今後多くの症例での長期に亘る研究が必要と思う.
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