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ネルソンのText Book of Pediatricsの日本語訳がはじめて出版されることになったが,このことの小児科領域における意義は極めて大きいと思われる.小児科学を志す人はいうまでもなく医学生に至るまで,ネルソンの小児科学の名前を知らない人はないであろう.それほどまで古い歴史をもって磨きぬかれた名著であり,日本の数多くの小児科学教科書がネルソンの小児科学を範として書かれている.したがって今さらネルソンの小児科学の内容について云々することはないし,また監訳者の中山教授がネルソンの教科書が如何に変遷し,すぐれた形にととのえられたかを序文に書いておられ,それがそのまま本書の書評にもなっている.
私が小児科医を志すようになって初めて自分で買った小児科学書が,Mitchell-Nelsonの第5版(1950)であった.当時Cecilの内科学書とMitchell-Nelsonの小児科学書はアメリカの教科書の双壁をなすものであった.私の学生時代はドイツ医学の教育をうけた先生方に教えられ,使用した参老書もドイツ語の本が多く,英語の病名やその他もろもろのmedical termにはとっつきにくく,Mitchell-Nelsonは辞書を片手に読んだことを憶えている.したがってその当時,読みながら常にまどろっこしさを感じており,これが日本語であればとよく思ったものである.その後はアメリカ医学のとうとうたる移入によって,講義にも英語のmedical termが使われるようになり,英語の教科書への親しみを増しており,最近の若い医師や学生たちにとってはドイツ語の教科書よりはむしろ英語の教科書が普通となっている.とはいってもやはり外国語の教科書は,日本語を読むほどには気軽に読まれないうらみがあり,医学生がネルソンの教科書に親しむ機会は比較的少ないように思われる.同じようなことは実地医家にも共通しているようで忙しい診療の間に一寸しらべたいと思う時は,やはり日本の比較的詳しい小児科学書を参考にすることが多いようである.しかし日本の小児科学書はネルソンを範としていながらネルソンを抜くものはないようである,ネルソンの編集者であるVaughan,McKayの序文には医学生,看護婦,その他の医療従事者に至るまでの利用が期待されており,本書の目本語訳によって,日本でもこれらの人々の利用が大変便利になったことは喜ばしいことであり小児科学の発展にも寄与する処が大きいと思われる.
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