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今回,有山裏博士の「消化器血管造影」なる力作を読ませていただき広範囲に亘る内容の整理の的確さ,その造影写真の鮮明さ,渉猟された文献の豊富さにまず深い感銘を受けた.ここ20年間の血管造影法の進歩は素晴らしく,造影することに意義のあった時期はともかく,触知できるような大腫瘤の血管造影像を得て満足していたのもそう昔のことではない.今日では本法が次第に独立した診断法としての地位を確保するとともに診断可能の限界が論議されるようになった.そして,今や単に診断法にとどまらず血管の選択的塞栓など治療への応用も試みられるに至っている.本書はこの血管造影法の進歩の道程を多数のレ線写真に加えて摘出標本や模式図,さらには胆道,膵管造影像などと対比させて示されている.とくに本書129頁にみられるごとく,脾動脈断面の組織像からencasementの状態が明快に説明されているなどは心憎いばかりであり,また146頁の膵血管腫本邦第1例が示されるなどの配慮は幅広い読者層に深い感銘を与えるに違いない.
いうまでもなく血管造影像は陰画であり,その所見からいかなる陽画を想定するかは読影者の学識であり経験であろう.したがって血管造影像の読影には鮮明な造影像を得る努力は勿論であるが,その像をもたらす病変部を手術や剖検の機会に自らの眼で見,手で触れるだけの探究心が望まれる.本書には有山氏のその力強い熱意が随所にみられるのは心強いかぎりである.一方,氏も述べられているように血管造影法は少なからぬ侵襲を伴う検査法である.したがって本法を施行する以上,その価値が最大限に発揮されるよう様々な工夫がなされなければならない.例えばpharmacoangiographyであり,superselective angiographyであろう.そのうちでも氏は,超選択的造影法としてcatheter exchangingmethod(34-35頁)を推奨されている.これは比較的容易に実施できて,しかも特殊な器械を要しない点きわめてすぐれた方法であるがカテーテルの挿入,抜去などの操作に習熟した者が行ってこそ安全かつ有益な方法であることを蛇足ながらつけ加えさせていただきたい.膵癌,肝癌などの早期における部位診断と切除可能性の判定,治療への応用などが今後の血管造影法の課題といえよう.氏はpharmacoangiographyやsuperselective methodなどを駆使しこの困難な課題に肉迫しておられる.
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