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書評「イラスト外科セミナー―手術のポイントと記録の書き方 第2版」
青木 照明
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1東京慈恵会医科大学外科学講座第2
pp.1588
発行日 1998年11月25日
Published Date 1998/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403103864
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自然科学の研究手法には3つのステップがある。“観察”“記録”そして“分析・検討”の3段階である.医学も自然科学の一分野である.ただし,臨床医学においては,“観察”の段階において対象が人間であり,単に観察対象として物理的に存在するのみならず,対象の能動的な情報提供がある点が他の自然科学とは異なる.すなわち生活歴や病歴などが現在の物理的存在体の観察に洞察力による解釈を与える.
さて,自然科学における研究手法の第2のステップの“記録”であるが,現在では精巧な写真やビデオによる記録,身体の内部の画像の記録法は大きな進歩を遂げている。このような時代にあって自分の手を使ってイラストレーションを書く記録の仕方にどのような意義があるか? 私も学生には画像診断の画像,摘出標本の写真などを一度自分でスケッチさせる.記録の重要性を認識させる第一歩である.人間が物体を観察して存在する様態を明らかにするとき,その形状,色,動きなどは一度観察者の脳のフィルターにかかりそして理解される.観察の第一歩である.すなわち“心ここにあらざれば見れども見えず聞けども聞こえず”であり,そこに表現される対象の様態は記録者の理解で変わってくる.漫然と撮られた写真一枚は場合によっては全く意味をなさない,それに対し観察者が描いたスケッチはその観察者が何を見,何を理解したかを的確に表現する.
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