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書評「がんの浸潤・移転―基礎研究の臨床応用」
峠 哲哉
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1広島大学医学部原爆放射能医学研究所腫瘍外科
pp.1598
発行日 1998年11月25日
Published Date 1998/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403103866
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がん転移と聞くと,外科医になりたてのころ,がん手術の前立ちしたときに教えられた“no touch isolation”が反復される.お腹が開いたら,がんを“触るな,持つな,握るな”と口酸っぱく言われた.どのように気遣いをしても転移をするものはしたし,そのころ,がんが転移するメカニズムもほとんどわかっていなかった.今はどうだろう.本年度の日本癌学会(阿部薫会長)で「がんの浸潤・転移」のカテゴリーに分類された演題数は,総演題数2,811題のうち260題を占める.ちなみに,初めて癌学会に出席した1973年,第32回総会での転移の演題数は,645題のうち21題であった.“転移を制するものはがんを制する”の言葉通り,今,がんの制圧を目指す英知がここに集約されていると言ってもよい.
臨床医はこれまで,ひたすらきめの細かい臨床研究を行い,外科手術,化学,放射線,免疫療法を駆使して臨床成績の向上に貢献してきた.加えて,原発巣からの離脱に始まり,定着,増殖に至るまでの複雑で長い過程を経て転移するメカニズムが解明されつつあるが,一方,成す術もなく,多くのがん患者を失うのも現実である,われわれ臨床家は,基礎研究に根差した画期的な治療指針の出現を一日千秋の思いで待っているが,何かの手掛かりをと思っても,正直に言って基礎研究と臨床の溝は余りにも幅が広すぎる.
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