内科エマージェンシー 私の経験
検査より治療優先
玉野 宏一
1
1獨協医科大学循環器内科
pp.286
発行日 1998年10月30日
Published Date 1998/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402907135
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今から約15年前,某病院で当直をしていた私のもとへ呼吸困難を訴えた老婦人が家人に付き添われて来院した.夕方まで普段と変わりなく過ごしていたが,突然息苦しくなったという.意識は清明だが起座呼吸で,下肺野から中肺野にかけて湿性ラ音が聴取される.急性心筋梗塞による急性左心不全を疑うことは,経験の浅かった私にもさほど難しいことではなかった.私はその旨を家人に手短かに説明した後,静脈ルートを確保し心電図で急性広範囲前壁梗塞を確診した.肺うっ血を確認するためにオーダーした胸部X線撮影の終わる頃,老婦人の呼吸困難が急激に増悪し意識が朦朧となってきた.あわてて気管内挿管し急性左心不金の治療を開始したが患者の状態は悪くなる一方で,病棟に運ぶこともできないまま外来で死亡してしまった.
来院から胸部X線撮影が終了するまで,20分ぐらいだったと思う.当時の私は診断に最低限必要な検査をかなり手際よく行ったつもりだったが,後になって本症例では呼吸困難の鑑別に胸部X線写真は不要と思った,心電図で急性心筋梗塞と診断した時点で呼吸困難の原因の肺うっ血であることは明らかであり,速やかに治療を開始すべきであった.
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