内科エマージェンシー 私の経験
意思疎通ができない患者の診察
卜蔵 浩和
1
1安来第一病院神経内科
pp.153
発行日 1998年10月30日
Published Date 1998/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402907082
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大学病院で当直をしていたときのことである.急患があって救急外来に呼ばれ,処置をして病棟の仕事にとりかかろうとしていたとき,精神科の先生からちょうど同じときに救急外来を受診されたある患者さんの診察を依頼された.40歳の女性,当病院は初診で,紹介状もなく飛び込みで救急外来にやってきていた.さっそく診察しようと見にいくと,その患者は手足をばたばたさせて,「やめてくれー」,「帰るー」などとわめきちらして暴れていた.名前を聞いても,こちらを見て下さいと言っても,全く従うことができなかった.診察にならないので困ったが,とりあえず両手足を動かしているのだから麻痺はないであろうと判断し,瞳孔など脳神経系と深部腱反射も正常なのを確認し,「局所神経症状はないようですね,心因反応ですかねー?」と言ってその場を離れた.
ところが後にその精神科の先生から再びその患者依頼を受け,どうも脳梗塞らしいからもう一度見てくれといわれた.そんなはずはと思ったが,CTスキャンでは両側後頭葉,側頭葉にかなり大きい脳梗塞があり,視中枢の障害で眼が見えなくなる,いわゆる皮質盲の状態と考えられた.「こちらを見て」と言っても無理なわけである.精神症状も側頭葉などの病変のためと思われた.さらに家族からよく話を聞くと,もやもや病で他の病院に入院したことがあるとわかった.診察前にもやもや病であることや発症前後の様子がわかっていれば,もう少し別の見方ができたかも……と専門医として恥ずかしい思いをした.
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