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一般臨床医にとって尿を診ることが大事であることは,in—outバランスの管理,代謝異常の発見などごく当然のことであるが,高度先端技術に目を奪われおろそかになりがちなことも事実である.今回,尿を診ることを怠ったばかりに痛い目にあった経験を呈示する.
症例は29歳女性.主訴は下腹部痛,同じ年の3月にも同様の症状があり,入院歴がある.この入院時にSIADH(Na110, ADH32)をきたしたが,補液にて自然緩解している.産婦人科的異常なく,試験開腹でも閉塞や虚血などの異常所見はなく,後腹膜も正常であった.同様の腹痛にて2回目の入院後,再びSIADHを起こし,Na108まで低下した時点で痙攣発作を起こし,原因不明の低Na血症とのことで,内科に転科転棟した.このとき,尿はオレンジ色をしていたが,痙攣発作後とのことで注意がおろそかになった.精神的に不安定となっていたのも,低Na血症と痙攣発作後であるためと考え,この時点で思考の中断が起きてしまった.精査に入ろうとしたときに,再度,激しい下腹部痛が起こり,対処に追われた.繰り返す発作的下腹部痛のため,両親が不安を覚え,他院での精査を希望したため,診てもらえるかどうか紹介状持参で相談しに行ってもらったところ,次の日,電話にて急性間欠性ポルフィリアは鑑別しましたかとの連絡があり,内科一同,なんでこれに気づかなかったかと,衝撃と悔悟の念で一杯になった.急性腹症の鑑別からでも,SIADHの鑑別からでも,当然たどり着くべき診断である.しかも本症例の,入院2週間前の病棟回診時,横紋筋融解症の患者の尿の色をみて,鑑別すべき疾患として忘れてはならないものとしてポルフィリアを指摘した直後のできごとのため,二重のショックを受けた,後日,返ってきた結果では,尿中アルドラーゼは低値,コプロポルフィリンは高値であった.前回入院時,自然緩解したと思われたときは,グルコースを含む輸液が十分なされていた.
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