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診断機器の発達にともなって,理学所見の軽視が多くなっていることに注意が喚起されているが,手軽にできる検尿・尿所見についても,同様の危険性を感じている.
症例は32歳女性.主訴は全身の疼痛.数年来,口内乾燥とう歯の増加を認めていたが,全身の疼痛が起こり,だんだんと悪化.歩行も困難となって近医受診.抗核抗体陽性よりなんらかの膠原病を疑われ紹介された.理学所見上,口内乾燥,う歯多数で,歩行はペンギン歩行.肋骨・中足骨などの骨上に明らかな圧痛を認めた.同部のX線写真では骨折の不完全治癒像を認めた.特殊検査では,ss-A8倍,ss-B16倍,Shirmer test,Gum test陽性,唾液腺造影でapple tree appearanceがみられ,小唾液腺の生検で萎縮とリンパ球の浸潤がみられ,シェーグレン症候群(SjS),sicca alone群は確定した.当時,私は研修1年目で,ここまではスムーズにきたものの,さてSjSと骨の破壊についてなんら解決しないまま2週間が過ぎた.最初からやり直しのつもりで,入院後の検査を見返していると,検尿で常にpHが8を超えている.改めて教科書や文献をながめてみると,renal tubular acidosis(RTA)の合併例がSjS,特にsicca alone群では頻度が高いとされている.念のために測定した動脈血ガス分析ではpH6.98,HCO3—8.9と著明な代謝性アシドーシスを示していた.SjSとRTAの合併であることまでわかれば,今度はRTAを調べてみればよい.RTAにはosteomalaciaの合併頻度が高いとどの教科書にも書いてある.X-P上認められた骨折の不完全治癒像は,骨軟化症に特異性が高い,Looser's lineと呼ばれる所見であった.本患者は,Shoel液の投与によって劇的に全身の疼痛が改善し,歩行も正常化した.未熟な医師に当たったばかりに,患者さんは不要な苦痛に約ひと月も苦しめられたかと思うと,今となっては冷汗が出る思いがする.検尿のpHが常にアルカリ性を呈することは,一般の,特に若い人では稀であることに気づけば,入院時に仮診断,検査方針,治療方針まで到達できる材料が揃っていたのである.理学所見は当然のこととして,検尿など簡単に施行できる検査の所見を軽視すべきではない.
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