一冊の本
「ガン回廊の朝」—柳田邦男著,講談社,昭和54年6月
柴田 一郎
pp.1981
発行日 1986年11月10日
Published Date 1986/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402220621
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私にも若い頃から,そのときどきにすばらしい感銘を受けた何冊かの本がある.医学に限らず文学書なども,それぞれに私のある時期の一つのくぎりになったような本もある.しかし,その中から一冊,ということになると,やはり最近10年位の間に読んで感銘を受けたものといえば,柳田氏のこの本あたりになってくる.ふと本屋の店頭で見かけて買った.
冒頭から田宮猛雄先生の名前が出てくる.私が学生時代に衛生学の講義を聞かせて戴いたあの温厚,かつ剛毅なお顔,そして昭和31〜2年頃伝研(今の医科研)の玄関でお見受けした懐しいお顔を思い出す.巻頭,先生の胃癌発病という事件から本は始まる.昭和34年,田宮総長を得て世界最高水準の「臨床と研究」を目的とした国立がんセンターの誕生より53年頃に至るがんセンターの光栄と苦渋にみちた歩みを淡々と述べた500頁を超える柳田氏のノンフィクションである.
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