- 有料閲覧
- 文献概要
炎症性疼痛の発症機序
炎症に伴って痛みが起こるが,これが患者の訴えのうち最大のものであり,また,臨床医として,治療の対象になるものである.炎症性疼痛の発症機序はいまだ不明の点もあるが,圧迫のような物理的なもの,阻血,pH低下,そしてキニンなどの種々の発痛物質といった化学的なものの相加ないし相乗作用で起こることは間違いない.炎症部位を圧迫すると痛みが増し,排膿によって痛みが軽減することから,圧迫が炎症性疼痛の原因となっていることも間違いない.炎症あるいはそれに伴って起こる虚血により,局所はアチドーシスになる.このpH低下は種々の理由により炎症性疼痛に関与する.すなわちH+とK+が細胞内外で交換し,炎症巣ではK+の濃度が上昇する.K+はそれ自体が発痛物質であると同時に,他の発痛物質の感度を⊥げる.一方,炎症によって直接,また,これらの局所の変化により種々のchemical mediatorが遊離する.多くのchemical mediatorには発痛ないし疼痛閾値低下作用があるが,このうちブラディキニンが重要と考えられている.一方,最近注目されているプロスタグランジンも痛みのsensitizerであり,また,種々の発痛物質による痛みを持続させるという重要な作用がある.プロスタグランジンそれ自体には発痛作用はない.なお,ブラディキニン,プロスタグランジンについては次の機会に詳しく解説する.
以上のように,炎症巣でみられる物理的,化学的,また,生化学的変化が組み合わされ,図1に示したように,痛みを起こすわけであるが,痛みを感受する神経には特殊な終末装置がなく,また,刺激の種類がいかなるものであっても,痛みを感じ,しかも多くの場合,組織障害を起こす程度の強さの刺激により痛みが感じられる,これらのことからも,やはり炎症巣で生産された化学物質が痛みの発生に大きく作用していると考える方が理解しやすい.
Copyright © 1975, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.