連載 海外レポート ニューヨーク州保健省の日常・2
公衆衛生政策の日米比較
ホスラー 晃子
1,2
Akiko S. Hosler
1,2
1ニューヨーク州保健省慢性病疫学課
2ニューヨーク州立大学公衆衛生大学院
pp.120-121
発行日 2000年2月15日
Published Date 2000/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401902243
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アメリカと日本の政策を比較するのは,簡単なようでなかなか難しい.国土の大きさ,民族構成など多くの違いがある上に,連邦制のアメリカと中央集権が土台になっている日本とでは,政治の風土が全く異なっているからである.アメリカでは州法が日常生活の基本であり,時には地方自治体の条令や団体組織の私法が優先されることもある.連邦政府の政策が直接国民の暮らしに影響するというのは,特殊な事例だけといってもおおげさではない.とはいえ公衆衛生の分野では,アメリカでも国全体のまとまった政策方針がかなり明確化されており,日本との比較もしやすい.
ところでこちらでよく使われる引用句に,「アメリカは世界一の医療消費国であるのに,国民の健康レベルは先進国の中でも下位で低迷している」というのがある.また「アメリカは主な先進国中,国民総健康保険制を持たないただ一つの国である」というのもある.日本ではたばこ政策や感染症の対処の例をとって,アメリカの公衆衛生政策はかなり進んでいると判断しがちであるが,アメリカ人自身はそれほど自国の政策が優れていると思っていない.特に肥満とそれに関連した生活習慣病の蔓延,近年向上したとはいえまだ問題のある母子の健康など,実際の成果が政策に追い付いていないという懸念がかなりある.国を挙げての政策展開というのも,こうした問題は州レベルでは解決できないという危機感に根差したものであるといえる.
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