銀海余滴
へをひつて尻つぼめ/日米眼科の比較
初田 博司
1
1初田眼科医院
pp.883,918
発行日 1967年7月15日
Published Date 1967/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410203696
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幼時一家団らんのかるた遊びで,必ず最も早くこの一枚に手を出したのが想い出されるが,その理由はよくわからない。着物のすそをたくし上げて後向きになつた男の絵が描いてあり,右肩の所が丸く白くぬけたところへ,「へ」と印刷してあつたものと記憶するが,その札をにらみながら,読み手が「へ」と言い出すのを今か今かと待ちあぐんでいたのだからおかしなものである。
さて,外来の一日,若い母親が小さな女の子を伴つて来訪,いざ診察というのでカルテと子供の顔を見くらべて,昨日より良くなつたなと思う。再来患者で軽い結膜炎の初期だ。例によつて子供の頭を仰向きにひざの上にのせ,母親に子供の両手を押えさせて洗眼点眼処置をすませ,「さあ終りですよ,昨日よりも充血もはれもひいている。あしたまたいらつしやい」といつて,ふと母親の顔をみると変だ。妙に恥かしそうな顔をしているばかりか,耳のつけ根まで真赤になつてうつむいたまま,小さな消え入りそうな声で「ハァ」といい,返事のあとで白い歯をみせてにこりと笑うのである。それから逃げる様にして子供の手をひいて急いで帰つていつてしまつた。全く理解に苦しむほかはない。
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