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1.はじめに
卵巣機能欠落症や更年期障害に対するホルモン補充療法(hormone replacement therapy;HRT)の有用性は多くの臨床知見により明らかにされ,また各種器官・臓器における作用に関しても基礎的研究によりエビデンスが集積されてきた.さらに治療様式やホルモン製剤の改善や開発も進み,HRTは多くの中高年女性のQOLの増進に大きな役割を担っている.一方HRTの安全性について,特に長期のHRTと乳癌との関連については,これをありとする報告と,なしとする報告があり,信頼性の高い調査に基づいた回答が求められてきた.
以上の状況にあった米国において,閉経後の女性における疾患と予防対策の総合的評価を目的とした大規模前向き臨床試験Women's Health Initiative(WHI)がNational Institutes of Health(NIH)によって1991年から15年の計画で開始された1).そして平均試験期間5.2年の時点で対照群に比して骨折と結腸・直腸癌のリスクは有意に減少するものの,浸潤乳癌はあらかじめ設定したリスクの範囲を逸脱していると判定され,Hormone Programのうちでエストロゲン+プロゲスチン配合剤を用いる試験が中断された2).さらにエストロゲン単独療法の試験では,心疾患には影響はみられないが,脳卒中のリスクが上昇するとの判断により,平均試験期間6.8年の時点で,早期に終了することとなった3).これらの結果が広く報道された結果,世界的にHRTに対する考え方が大きく変化することとなったが,以上の経緯が日米におけるHRTに及ぼした影響を,両国の種々の背景因子を含め解析することは,今後のHRTのあり方を論じるうえで重要である.
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